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 中規模河川の河岸段丘に沿ってヒグマの生息地に食い込んだ形の中山間地域や、大規模な農地帯の隣縁部で起きるヒトとヒグマの問題の多くは農業被害に直結し、いわば「クマの餌付け」の問題であるが、特に近年、無警戒にヒトの活動域を歩き回ったり目撃されたりする「無警戒型ヒグマ」の問題が北海道各地で増えている。先述した「クマはヒトの鏡」からすると、ヒトの暮らしや行動の変化・人間社会の変化がこれらのヒグマの変化をもたらしているが、幾つかの理由が考えられ単純ではない。

北海道の現状と対策
 下図は、北海道の2011年上半期の、捕獲されたクマの年齢の内訳を表すデータ(道庁)のグラフである。赤い棒グラフがこのウェブサイトに再三登場する若グマ(1歳~5歳)で全体の73.5%にのぼる(一部仔熊を含む)。5歳程度までのクマを生物学では身体的にまだ完全な成獣まで成長していないという意味で亜成獣とも呼ぶが、心理的にもまだまだ経験不足で成長段階にあるクマである。

 このグラフからも若グマの問題行動を改善できればヒグマ問題自体が減少し、捕獲数も下げることができることがわかる。なおかつ、積極的な教育活動により「ヒトへの警戒心・忌避心理」を若グマの意識に植えつけ、その学習を強化させて固定化させることができれば、その個体は継続的にその習性で暮らすことが期待でき、グラフ中の黒い部分(6歳以上の捕獲数)も一定のタイムラグを持ちつつ自動的に減少へ向かうことが予測できる。またさらに、教育達成個体がメスの場合、世代間の習性の母系伝承が作用し次世代以降の個体に教育第一世代への教育効果が受け継がれると考えられる。そのため、若グマへの教育活動を地道に続けることにより、問題が解消へ向かいつつ、教育の活動自体が容易になっていくと推測できる。
※現在までの北海道においては「捕獲=捕殺」を意味する。


無警戒タイプの若グマ
 前項で述べたように、人里・市街地・商店街・キャンプ場周辺などを無警戒に歩き回ったりするクマには大きく分けて2種類ある。経験不足で無知な学習途上の若グマが若干の不安を持ちながら旺盛な好奇心でフラフラと行動する単純な無警戒タイプ。そして、観光エリアや都市部などで幼少の頃よりヒトの存在に馴化し「ヒトは無害である」と学習して無警戒になった新世代ベアーズタイプ。こちらは、表現するならアパテイアタイプだが、丸瀬布のように二つの条件が重なったエリアも中には存在する。
 これらのクマが今世紀に入ってどうして急に現れるようになってきたか。その原因について整理しておきたい。


原因1:クマ撃ちの減少と銃器の高性能化
 一つは、クマ撃ちの減少もしくは欠落が原因として考えられる。クマ撃ちというのはヒグマをよく知り、銃を肩に山へヒグマを追い仕留めることのできるクマ猟をおこなうハンターである。シカ駆除と称してクルマに銃を積んで林道類を徘徊し、偶然見かけた若いクマをいくら殺しても、それは単にクマを殺した人であって「クマ撃ち」とは呼ばない。そのクマ撃ちが現代では風前の灯火で、「クマが絶滅する前にクマ撃ちが絶滅する」と冗談めいて言われるが、実際、専門家の間では大きな懸念となっている。実際私の暮らす丸瀬布においても、もう20年以上クマ撃ち不在が続いており悩みのタネになっている。
 北海道各地に存在したクマ撃ちは、クマを追い、あるいは待ち構えて射程に入れクマを獲ることができたが、当然ながら用心深く逃げ切るクマも多くいた。現代の流し猟的なシカ駆除とは異なり、いろいろを観察し知恵を絞って臨んでもクマに感づかれて逃げられる。だから狩猟としても価値があった。つまり、クマ撃ちがクマを撃ち殺したからではなく、クマを追って山を歩き回ることで、結果的にクマに対してヒトを警戒する心理を植えつけてきた側面がある。追われて逃げるクマは「自分は逃げる者」「ヒトは追ってくる者」と脳に刻み込んだだろう。そのクマの意識がヒトを警戒させ、結果的にヒトが多数活動する人里や住宅地・商店街から遠ざけたし、北海道でヒグマが簡単に目撃できずいつまでも得体の知れない山のモンスターであり続けた理由だ。
 ただ、この理由はクマ猟の副産物として派生的にクマに学習させていただけで、クマ撃ちは単にクマを獲物として追っていたに過ぎずクマを教育しようとしていたわけではない。また、特に誤解をしてはならない点は、クマ撃ちがクマを獲ろうと追いつつ、彼らの望みとは逆に逃げ切るクマが重要だった点だ。追うクマを銃で射殺してしまっては、じつは意味がない。ヒグマの側にヒトへの忌避・警戒心をガッチリ植えつけつつ、逃がすことに意味がある。ヒトを警戒し忌避するようになった個体がメスならば、そのクマは仔熊にそれを伝承し、クマ社会にヒトへの警戒心というのが広がっていく。

 「銃器の高性能化」というのは意外かと思うが、私自身はアラスカでもともとクマからの護身と食糧調達のためにショットガンをほとんど常に携帯していた。友人のアラスカのハンティングガイドとともに猟に出たりもしたが、現代の高性能ライフルとショットガンでは、その射程が5倍程度違う。1頭のシカを撃つにもライフルなら500mの距離から比較的正確にシカのネックを貫けるが、ショットガンでは100m内外まで接近しないと確実には仕留められない。友人は私にライフルと勧めたが、私はショットガンにこだわり続けた。私の場合、クマに対しては30mの相手をいかに確実に倒すかが大事で、遠射の必要性を見出していなかったからだ。結果的に、遠射技術の代わりに私は野生動物に接近する技術を手に入れた。シカを木陰で待ち構えて脇腹を突いたり、ヒグマ相手のダルマさんが転んだをやったり、恐らく、さしたる望遠レンズを使わずヒグマを写真に撮れるのも、その頃の技術の名残かも知れない。
 さて、渡島半島では春期の人材育成捕獲として春先の積雪期にヒグマを銃器で捕獲する取り組みがおこなわれていたが、視界の開けたこの時期にはクマの足跡も追いやすく、遠射が利く。それで沢を挟んで400m離れた場所などからたびたびヒグマが射殺されたが、こういう射殺ではヒグマはヒトに追われていることも気づかず突然銃弾を撃ち込まれ仕留められたりするので、ヒグマに対しての教育効果が非常に薄い。また、雪が消え、薮がはびこった時期のヒグマの捕獲では、400mも見渡せる場所自体が皆無で、先述した私の距離、つまり30m先のヒグマをいかに確実に仕留められるかのほうが要求されるケースが圧倒的に多いのだ。人材育成捕獲という道庁の取り組み自体は高く評価できるものの、それをおこなってヒグマ側の教育効果が薄く、初心者の体験学習くらいにはなるが人材育成効果もじつは乏しい。もちろん、ハンター側がすこぶる有利な条件でヒグマを何頭か殺したところで、被害防止には大して結びつかないだろう。ヒグマへの教育効果・人材育成効果をどちらも効果的に得ようと思えば、「使用する銃器はショットガンに限る」という一文を規則に盛り込めばいい。12ゲージのショットガンを本当に使いこなせれば、実際、クマ撃ちが用いる338WinMagを楽に扱え、ほとんどドロップやドリフトを計算せずクマをあらゆるレンジから仕留めることができるようになるはずだ。
 余談になるが、クマ撃ちに最も重要な資質・技術は、銃器の代わりにイヌを連れクマの追い払いや誘導をおこなうベアドッグハンドラーの私とまったく同じで、近距離にヒグマを置いていかに動ずることなく冷静に居られるかであって、遠射能力では決してない。

 お気づきと思うが、12ゲージショットガンでは射程が短く十分接近することができずに取り逃がすクマが多く出るだろう。もちろん、それがヒトを警戒するように教育されたクマが生き延びることになり教育効果が増すし、最もハンター側に有利な条件下であってもハンターにとっても少しは実践的な訓練にもなる。さらに、銃の代わりに200㎜程度のレンズをつけたカメラを持ってヒグマを追跡し(あるいは待ち伏せ)写真を撮ったら一段落という遊びでもいいし、野球経験のある人ならボールを持参し剛速球をクマのお尻にぶつけて一段落でもいい。半分は冗談だが半分は本気だ。とにかくヒグマの側にヒトから遠ざかる・逃げるという意識を植えつけなくてはならないが、それにはヒトが追い詰めていったり、クマへのストーカー行為でジワジワと遠ざけたりしなければならないのだ。


原因2:無分別なヒグマ捕獲―――捕獲リバウンド現象
 しかし、道内各地でいっせいに無警戒型が現れるのは、クマ撃ちの減少(または欠落)だけからは説明できない。何か別の変化が人間社会側にあったはずだが、2004~2010年の丸瀬布における観察で浮上してきた原因がある。「無秩序なヒグマ捕獲」というのがそれだ。
 北海道でもヒグマの生態はいろいろ研究されてきたが、社会学的なことはこれまでほとんど研究されていない。その結果、ただ単純に「クマは殺せば殺すほど被害が減り安全だ」的な安直な考えが北海道では漫然と続いてきた。しかし、今世紀に入って道内各地に導入された箱罠(はこわな)によってヒグマの捕獲数が跳ね上がるとともに、無警戒型のクマが各地に現れてきた時期的な符合は見逃せない。これは生態学だけからは説明できない現象である。
 私の町・丸瀬布においても、箱罠によってどんどんクマが獲れるようになったにもかかわらず、目撃数や出没が増え、出没パタン・場所も悪い方向に変化してきた。「最近、クマがおかしい」「急激に増えた」とまるで口裏を合わせたかのように行政・ハンター・農家が言い始めたが、ただ不思議がるだけで「どうしてそうなったか?」を矛盾なく説明できる人はいなかった。もちろん、研究者・専門家にも。誰も説明できないのであればいったん箱罠の使用を中止してもよかったが、丸瀬布ではただ惰性で使い続け、一部のハンターは見かけただけのクマを撃ち殺し続けた。私はその行政対応に一定のストレスを与えつつ、この不思議な現象を「捕獲リバウンド」と名付けて箱罠導入年の2004年から13年間ほど追って来たが、ようやく事実の詳細や傾向が整理できて「どうして?」に対して理路整然と確信を持って答えられるようになった。(参照Link:ヒグマのアドバンス/捕獲リバウンド

 従来的にはいわば小学生の算数のような計算でヒグマ対策がおこなわれてきた。つまり、10頭いるクマのうち1頭殺せば10-1=9と9頭に減るため被害が減り安全になると。しかし実際はそんなに単純なものではなく、1頭減ったことによるヒグマ社会のバランスの崩れや、その1頭が活動していた空間がヒグマ不在の空間となり、その空間がその後どう変化するかまで読んで1頭の捕獲判断をしないと、まったく予期せぬ事態が起きてくる。丸瀬布に見られる「クマをどんどん獲ったらクマが急激に増えた。最近クマがおかしい」と少なくとも行政やハンター・農家には見える状況が生まれたのは、まさにそれだ。目の前の場当たり的な一頭より、むしろそれが欠落したあとの長い目で見たトータルな判断のほうが、はるかに地域の将来のためになる。
 丸瀬布では箱罠導入年の2004年に狭いエリアで10頭ほどの大量捕獲があり、捕獲リバウンドがあちこちで起きたため顕著にいろいろな変化が感知できたが、近年、北海道各地のクマの問題傾向やパタンを見ていると、多くの市町村・地域で大なり小なり同様の現象が起きていると推察できる。


原因3:無害型ヒトの教育効果
 「新世代ベアーズ」とはじめに表現したのは知床の山中さんだったと記憶しているが、知床型の無警戒タイプは、その後、大雪山の高原沼周辺にも現れ、2006年前後から丸瀬布「いこいの森」周辺の観光エリアにも明らかな予兆として現れた。丸瀬布の観光エリアにおいては予兆の段階で即座に追い払いなどをおこない、次いでベアドッグを導入して若グマの忌避教育を体系的におこなってきたため無警戒化を一定レベルで食い止めることができたが、道内幾つかの観光立地の地域で無警戒タイプの若グマがちょくちょく見られるようになってきた。
 当初、ヒグマの生息地内もしくは隣接する観光エリアに特有の無警戒グマかと思われたが、札幌西区・南区で地下鉄の駅の周辺にまで歩き回るクマが出たり、旭川のベッドタウンとして発展しつつある東神楽の住宅地周辺でも過去にないヒグマ出没が起き始めた。札幌・東神楽に関しては偶然調査をおこなう機会に恵まれたため現場のいろいろを見て回ることができたが、観光地における新世代ベアーズと大都市周辺の無警戒タイプができあがるメカニズムの基本は同一であることがわかってきた。
 知床の岩尾別・丸瀬布「いこいの森」・大雪山の高原沼であれば、膨大な数の観光客の活動に隣接して暮らすクマが徐々に「ヒトは無害である」と学習し、最終的には人目を気にせず無頓着に活動するクマができあがるし、札幌・旭川などの大都市周辺部では、住宅地などがヒグマの生息地に食い込む形で発展し、やはりその周辺の山のクマがそこに暮らすヒト・活動するヒトを無害であると学んで無警戒化が進む。無警戒な若グマがその環境で子育てをおこなうと、さらに無警戒な若グマとして親離れした仔熊がトラブルを起こしがちだということも「いこいの森」周辺の対策エリアで確かめられた(2009~2012)。
 つまり、アウトドアの観光エリアと都市部およびその周辺において、ヒトに対する無警戒化が進んだ新世代ベアーズが発生する条件が潤沢にあり、そのヒグマの無警戒化は世代を超えて伝承し、一種の文化的な広がりを見せる。

 丸瀬布においてクマに働くいろいろが非常に見えやすかったのは、2004年以降、上の三つの原因すべてが綺麗に揃っていたからである。つまり、クマ撃ちが不在で、漫然と箱罠を多用し捕獲一本槍に走り、なおかつ「いこいの森」を中心とした一大アウトドア観光エリアが町の立地条件になっていた。
 この難解なエリアでどうやってヒグマの無警戒化を食い止め、捕獲リバウンドで起きた「若グマのるつぼ」的な混沌としたクマの社会構造をもともとの安定したクマ社会に戻してきたかは、別項を参照して欲しい。その方法論の最も合理的で効果的な結論としてベアドッグがある。

 補足1)ヒグマ生息地の観光化が無警戒化を促す(丸瀬布事例)
 私の調査・対策エリアでいえば、ヒグマの調査をしながら山側から「いこいの森」を見ていれば素直に納得できる。「いこいの森」はヒグマの生息地の真っ只中に作られたキャンプ場を備えた遊園地みたいなもので盛期の集客力が15万人に達する。のべつ幕なしにキャンパーが訪れ、クルマが行き交い、園内の汽車が汽笛をうるさく鳴らす。夜になるとそれぞれがバーベキュー大会や花火をおこない、おまけに観光祭りやら花火大会がおこなわれる。ところが、2004年のクマの大量捕獲以降「若グマのるつぼ」と化したこのエリアでは、若いメスがいこいの森のすぐ裏の斜面で子を産み、育てて、親離れまでおこなっている事実が同時進行している。15万人の観光客が騒がしく活動する「いこいの森」を常にすぐ下に感じながら育った仔熊は常に多くの人が近隣にいて当然と意識していて、この若グマに「ヒトを警戒せよ」と要求しても到底無理なのだ。それで「いこいの森」周辺でヒグマの無警戒化が非常に起こりやすくなっている。観光地での新世代ベアーズは、ヒグマ生息地の観光地化あるいは生息地内の観光施設によって効果的にできあがる。
 2009年、親離れしたての若グマで非常に警戒心の薄い個体が感知された。そのクマをマークし、追跡や現認をおこなったが、行動パタンからメスと推定し、通常ならすぐさまガツンと追い払いなどをおこなってさっさと逃げるようにしてしまうところを、あえて放置しそのクマの経過を観察した。当初、私が予測したのは、そのメス熊が子を持ち、その仔熊が親離れして独り立ちした後に、若グマのどれか(もしくはすべて)が何かをやらかすだろうということだった。推測通りその個体はメスで2011年に2頭の子を連れて歩くようになったが、相変わらず無警戒のままで、日中の町道を仔熊ともども暢気に歩いた。そして2012年、7月中旬頃2頭の仔熊は親離れを果たしたようだが、8月に入りそのうち1頭が上武利集落の日中の徘徊をおこない騒動となった。年輩の住民への聞き取り調査では、「過去のこのようなヒグマの出没は一度もない」とのことだった。やはり放置すれば「いこいの森」を中心にヒグマの無警戒化が進む。そう確信した騒動でもあった。
 この日中徘徊をやらかした若グマに対しては、即座にベアドッグを用いて追跡をし一定の威圧をかけてその後の出没を消し、問題のメス熊と同胎に対しても同様の威圧をかけつつ数度の追い払いをおこなってヒトへの警戒心を引き上げた結果、その後、この3頭が許容できない行動を「いこいの森」および上武利集落付近でとることはなくなった。


 補足2)ヒグマの社会と文化性
 このように表現すると訝しげに思う人もいると思うが、いったんその先入観を取り払って欲しい。
 例えば「食」について考えてみよう。道南方面では稲(コメ)がヒグマの被害に遭う。名寄市周辺では、稲・小麦は被害に遭わないが、丸瀬布では小麦はデントコーンに次ぐ被害作物だ。ところが、斜里でさんざんな被害に遭うビートは、丸瀬布ではクマにはまったく見向きもされない。これは2010年当時のデータで今どうなっているかはわからない。つまり、「食」に関しても、「ヒグマはこれを食べる」とすべて決まっているわけではなく、地域性がある。では、その地域性はどうして生ずるか? それが、母系伝承をはじめとする社会的なメカニズムである、というのが私の解釈である。
 丸瀬布においてもビートの農地にクマ用の電気柵を張らず、ハネモノを農地の脇に山積みにしている現状では、あるときどこかのクマがそれを食べ、そのエリア一帯のクマにいろいろな伝わり方をして、そのうち「丸瀬布のクマはビートを食べる」という状況が生まれるだろう。それにかかる時間は、さほど長くない。
 伝わり方には先述の母系伝承のほかに、例えば単純なところをいえば、ビートを食べたクマの糞を別のクマが見つければ、嗅覚によって何を食べたかは手に取るようにわかる。そして、糞をしたクマの跡を逆に追ってビート畑を速やかに突き止めることができ、当然食べてみたくなるのがクマ情だ。一度食べてしまえば、ビートならばその後常習的に毎年食べるようになるだろう。この連鎖でその地域のクマのほとんどに「ビート食」が伝わり恒常化し、「その地域のクマの文化としてビート食がある」などと表現しても的を外さなくなるわけだ。
 これに似たクマの社会的な伝搬が「無警戒化」にも存在する。trap-shy(トラップシャイ)にも存在する。
※trap-shy:ヒグマがワナを警戒しワナが利かなくなる性質。(参照LINK:箱罠のリスク



 さて、クマ撃ちが結果的に周辺のヒグマに対しておこなってきたことはヒトへの警戒心の刷り込みだが、いわば「クマへの教育効果」である。その教育効果が消えた現代の方策としては、意図的に「クマの教育」をおこなう方向性しかない。もちろん、それはクマ猟で副産物として得られた教育効果よりはるかに正確かつ大きな効果をもたらしてくれる。
 一方、無秩序なクマ捕獲がもたらしたことは、それなりに安定して人里周りに存在していたヒグマ社会を不用意に破壊した結果起きているため、再びもとのヒグマ社会に戻してやる努力が必要となるが、もとに戻るまでの間、上述同様の教育をおこなわなければ無警戒タイプの解消は困難だろう。

 問題は上記二つの対策が非常に高度な知識・経験・技術を必要とし、なおかつ危険度も高いため、行政や一般のハンター、住民には不可能という点だ。例えば夜間対応ひとつとっても、十分な想定と準備をし訓練を積んでいなければ正確に遂行できない現実がある。もちろん夜間にハンターは銃を持ち出せないが、暗い中で一頭のヒグマを追い出したり、誘導したり、山へ追い払ったりという作業は、ことのほか難易度の高い作業なのだ。こういう現実をふまえると、行政や一般のハンターがおいそれと片手間にできる作業ではない。調査・パトロールから追い払いまでをきっちりこなせるヒグマの専門家はじつは非常に少なく、もちろん私はこれを専門にやってきているので相応の技術力を獲得してきたが、その他に知床財団のヒグマ対策の一部、生粋のクマ撃ちの一部、クマ研究者の一部と、両手の指で数えられるくらいしか存在しない。
 私自身、過去に幾つかの市町村からの依頼で周辺のヒグマの調査に入ったことがあり、数年前は札幌の市民からの要請で西区と南区の調査・対策を試みたが、本格的にその地域に張り付いて調査などをおこなわなければ得られる情報も、そこからつながる分析や対策の判断も不十分(不正確)というのが残念ながら正直なところである。札幌では、住宅地の直近1㎞以内に7頭ほどのヒグマを確認したが、それぞれのクマのベアプロファイリングが十分できるところまでは到底進まなかった。そもそも、時間をかけてさらに調査すればその倍ほどのクマが引っかかってくるように感じた。つまり、私や知床財団の先鋭を呼んだところで、その地域に専従しなければ丸瀬布・知床同様の対策まではまず実現しない。

 専門家を招聘できないとすればどんな方法があるか。

家庭医的なヒグマ専門家を持つ
 ひとつの方法は、一定期間しかるべき専門家に調査に入ってもらい、その地域のヒトの暮らしとクマの状況を調べ、その地域に合った現実的な方法をアドバイスしてもらう方向性があるだろう。もちろんそれでは理想的なヒグマのコントロールや教育はできないだろうが、トラブルが発生した場合、できるだけ早い段階でその専門家に遠慮せず相談し、再び現地を観察してもらって合理的な対策を練る。そういう方式になると思う。ヒグマ対策というのは、もちろん一般論も大事だが、地域地域の現状をふまえた臨機応変な対策を必要とする。その点、依頼を受けた専門家は家庭医的な立場になる。失礼な言い方になるが、しっかり調査もおこなわず素人判断で、あるいは因習的に従来通りの対策をおこなっても決していい結果は出せない。そんなことでヒグマ問題が解決するのなら、道内各地で近年増えている問題群は生じていないし、とうの昔にヒグマ問題は北海道から解消しているはずだ。

フォーラム・研修会の開催
 行政だけでなく住民にクマのいろいろを知ってもらうために研修会・フォーラムを開くのもいい方法だと思う。住民の安全性・被害防止に効果があるとともに、その地域のヒトの意識の変化・暮らしの変化が、周辺のクマの暮らしや性質を変え、問題が緩和する効果も十分期待できる。ただ、お決まりの行儀のいいフォーラムは意味がないとまでは言えないが、あまり効果的とは思えない。単に専門家や研究者が一方的な情報を提供するのではなく、現場の住民・農家・行政・ハンターらと双方向の場となるよう、工夫するのが望ましい。

猟友会とヒグマ専門家の広域連携
 その地域の猟友会に確たるクマ撃ちが存在している場合には、調査に入った専門家とクマ撃ちが情報交換を密にとって連携する方法がある。私にもそういう関係の猟友会支部・市町村がいくらかあって、ヒグマを知るという点でお互いに有益でありつつ、銃が使えないケースでは私はベアドッグを連れて飛んで行くし、将来的には捕獲判断をしたヒグマに対して確実な捕獲のために来てもらうこともあり得る。行政や住民・一般のハンターに難しく、クマ撃ちもヒグマの専門家も数が乏しい状況なら、当然、クマ撃ちと専門家の広域連携が必要で、例えば、クマ撃ちも専門家もいない地域のクマ問題に対して、別地域からクマ撃ちと専門家のチームが駆けつける、ということもあっていい。いや、あるべきだろう。そうなると、その元締めは道庁・振興局という事になるが、総じてゆっくりな道庁の動きを待っていては状況は悪くなる一方なので、自発的にそういう広域的な連携を模索したほうが地域のためにはいい場合もあるだろう。


 幾つか例を挙げておく。いずれの場合も対策を練る段階で一度はヒグマの専門家に入ってもらい、ヒグマの調査に加えて、周辺の環境・ヒトの活動(動線)を見てもらうのが先決と思われる。誤解してはならないが、この段階で相談すべきは電気柵の専門家ではなくヒグマの専門家だ。

例1)これまでヒグマなど出没したことのない市街地・商店街などをヒグマが歩き回った。
具体策例)この場合、まず再発防止のために電気柵をメインに用いてヒグマの出没ルートを遮断することを考えるが、そのためにヒグマの侵入ルート(バッドコリドー)の詳細を調査しなくてはならない。その調査結果によって、バッファスペースだけでヒグマの侵入が防止できるケースもあれば、電気柵まで用いないと止まらないケースもある。
 ただ、これはあくまで対症療法であって、電気柵やバッファスペースではそのクマにヒトへの警戒心を植えつけないため、その無警戒タイプが市街地などに入ってこなくても周辺の山林で活動する状況は変わらず、釣り・山菜採り・イヌの散歩・ジョギング・トレイルランなどでその無警戒な個体に遭遇するリスクは残ったままだ。
 もし仮にそのヒグマをきっちり追跡し効果的な「追い払い」までできる専門家が確保できれば、それをおこない出没したヒグマの無警戒自体を消してヒトやヒトの活動する市街地などへの接近をなくしてしまうのがベストだが、その方法が叶わないとき、そのヒグマに関する情報開示と注意喚起を充分おこないながら、ベアスプレーの貸し出しをおこなうというのもひとつの方法だろう。このタイプのクマのベアスプレーの撃退確率は非常に高いことが丸瀬布において実証されており、スプレーの使い方さえ間違わなければ、まず事故につながる可能性は低い。かつ、もしそのスプレーが使われる事例が起きた場合、その撃退でそのヒグマのヒトへの警戒心が発現する可能性が高い。
 注意点は、ヒグマの移動ルートの遮断あるいはルートの移動では、必ず専門家の調査と判断をもとに計画を立て、進めることだろう。その専門家は現場での経験値が高いことが必要だ。不用意に電気柵を設置すると、それが一種の誘導フェンスとなって思わぬ場所にヒグマを誘導してしまう可能性がある。バッファスペースに関しても同様だ。この繊細さがあるため、調査には最低でも1年を要する。
 また、問題の無警戒型が生じたメカニズムを現地に照らし合わせて分析し、原因をなくさないと遅かれ早かれまた同じタイプのヒグマが出現し同じ行動をとることが起きるだろう。

例2)農地に毎年出没するクマが、小学校の裏を通る
具体策例)まず、小学校ならびに小学生の通学路が近くにあるような場所では、箱罠の利用は避けたほうがいい。ヒグマの目的地である農地にクマ用の電気柵を回してしまえば問題は一挙に解決するが、それが不可能な場合、ヒグマの農地へのルートコントロールをおこない、小学校近くを迂回するように誘導する。それには上述同様、電気柵とバッファスペースを巧妙に用いる。クマに対して無防備な農地にクマが降りるのは、言ってしまえばクマ側に異常性も無警戒もないし、追い払ってもほとぼりが冷める頃、また農地に侵入してくるため、追い払いは必ずしもおこなわないでいい。
 注意すべき点は、クマが出没するからと周辺のエリアを無闇に立ち入り禁止にしないことだろう。気持としてはわかるのだが、ヒトの活動がなくなれば、さらにクマにとっては快適な移動空間・活動空間としてその場所を明け渡すことになるため、結果的にクマの出没は増え、周辺の山に多数のヒグマが生息している場合は、ますますその区域を複数のヒグマが利用するようになる可能性のほうが高い。丸瀬布でも「いこいの森」の脇の町道を閉鎖したりしていたが、その行政対応で余計にクマが「いこいの森」直近に接近してしまい、観光客・キャンパーの危険性が増した事実が確認されている。この手のパタンは道内あちこちに見られるが、原則的に、その場所が人里内ならば、クマを効果的に寄せて歩き回らせたければ立ち入り禁止や閉鎖対応、遠ざけたければ別の方策、というのが基本方向だ。人里空間の明け渡しは、よほどの根拠がある場合に限ると思う。



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