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Stage3:もしクマに出遇ってしまったら

 いわゆる「バッタリ遭遇」にはだいたいヒトのミスや油断が絡んでいるが、クマ側の経験不足や不注意がある場合も少なくない。仮にこちらがいろいろな注意・工夫をしていても、ちょっとした何かでクマに出遭うことはある。近距離にクマを見た瞬間「クマだ!」と動揺するのは仕方ない。が、ここで、目の前のクマが「どういうクマなのか」をできうる限り冷静に捉えるよう心がける。ただ、自分が直前にとっていた行動の意味を理解していないと、瞬時に頭を巡らせてこの作業をやるのはなかなか難しいだろう。
 私の調査エリアは時期によってクマの超過密地帯なのでトレイルカメラのチェックで小一時間歩いて戻るだけでも疲労する。足腰の疲れもあるが、神経と脳が疲れる。クルマに戻ると地面に仰向けに寝っ転がってボーッと空を眺めて脳を休めたくなるほど。そこまで極端でなくていいが、登山でも森の散策でも渓流釣りでも体力以上に五感と脳を常時使ってやって欲しい。
 
 現在の北海道で起こりそうなクマとの遭遇・トラブルパターンは概ね従来型を分類した三つに加えて、近年、知床や大雪などの観光エリアに生じている「新世代ベアーズ」的な個体を合わせ四つあるだろう。特に、新世代型との遭遇は、都市部郊外も含め今後増えると考えられる。
       

 じつは、それぞれのクマに対して、基本的な対応方向が異なる。従来、例えば「眼をにらむ」「死んだ振り」などが一律に正否を論じられてきたが、上の表に従って同じ行動でもヒグマの側にとって意味が異なってくる。そのあたりの差異を示しておこうと思う。 
 

1.「バッタリ遭遇型」→なだめながら距離をとる

 このケースでは、クマと遭遇した我々よりクマの方がびっくりし切迫した状態だろう。なので、刺激せず、できるだけゆっくりとした動作で距離をとって、万が一クマが突進してきても防ぎやすい立ち樹の後ろなどに回り込む。撃退にはベアスプレー(クマ撃退スプレー)が有効だが、遭遇から間髪入れず突進に移るクマもあるので、スプレーは瞬時に抜いて構えられるように持っておく必要がある。樹に回り込むのは、一種の盾にしてスプレーをできるだけ冷静に吹くためだ。
 特にバッタリ遭遇で見せるヒグマの突進の多くがbluff charge(ブラフチャージ・威嚇攻撃)なる「はったり攻撃」で、これはそのヒグマがまだ対話をしたがっている証拠なのだが、はったりだけあってその突進は激しい。突進が起こった瞬間に「はったり」か「本気」かを見分けるのは一般には困難だと思う。

 もし本攻撃であった場合、中途半端に応戦すると単にクマを興奮させ攻撃が致命箇所に及ぶ可能性も高い。ベアスプレーを持っていない場合、例えばクマに組み伏せられそうになった段階で、ある程度の怪我を覚悟して「うつ伏せ防御」姿勢をとるのも一つの方法だろう。「うつ伏せ防御」とは、腕で後首を守りつつ、脚を適度に開いてうつ伏せに寝転ぶ方法。合理的な「死んだ振り」と思ってもらえばいい。
 先に触れたように、クマとコンタクトをとるような状況に陥ってしまったら、それは既にかなりの大失敗だ。本攻撃まで受けるようなら、無傷で済まそうというのではなく、むしろ自らの負うダメージを最小限に抑える意識にシフトする。この場合、山でやっかいなのは出血多量。よって、止血の困難な頭部・頸動脈などをとにかく守り、ケツや腿を噛まれてクマが立ち去ったのであれば、むしろ安い授業料だと解釈できる範囲だ。
 ナタやスコップがあればそれで迎撃する方法も私は全否定まではしない。が、前項で述べたように、複数で歩いていてクマと遭遇と同時にコンパクトにまとまった状態で各々がナタを振り回す方がよほど危険という点と、ヒト側の性格や運動能力、そして相手のクマにもよるだろう。私は178㎝ほどで中肉中背だが、若いペーペーグマならいざ知らず、正直なところ400㎏を越えるような大型オス成獣の突進に対してナタを振るう気には到底なれないときがある。これが小学生だったら、小柄な高齢の女性だったら、と考えたりもする。私自身、自分のミスも確かにあるわけだし、突発的な突進に対して撃退するより「ゴメンチャイ」と謝ってクマの気を静める方向に動く場合もあるかも知れない。いずれにしても、ベアスプレーを携帯するのが最善手だと思う。

 バッタリ遭遇型では、とにかくこちらの「非敵意」「非攻撃性」を示すのがポイントだが、変に荒立てて対決姿勢を示すのは得策ではない。北海道で最も多くヒグマの攻撃によって死傷しているのは最も高性能な武器つまり銃器を手にしているハンターだが、その理由は銃器という高性能な飛び道具を手にしているために、はじめから最後まで「殺すか殺されるか」という意識でクマに対することがひとつの原因となっている。つまり、ヒグマ側の心理コントロールややりとりというところに頭が回る余地さえなく、観察自体がほとんどできていない。本当に危険な異常グマを止めるには銃器が必要である一方、ほとんどのクマに対して銃器は無用の長物であるばかりかトラブルのタネにしかならない。私自身、若い頃のアラスカでは無知や経験不足や未熟のせいでクマ用の護身でショットガンを常に携行していた。いつからかショットガンはベアスプレーに変わり、より安全にヒグマと山ですれ違えるようになってきていると思う。
 同じ理由から、切迫しているヒグマの「眼をにらむ」というのはお勧めしない。野生動物に対して執拗にアイコンタクトをとることは、敵意として受け取られる可能性の方がはるかに高いからだ。クマを見るとしても、むしろ漫然と視野に入れ、手はあまり動かさず下にさげたまま、ゆっくりとした動作で後退り、というのが基本となる。

 「なだめる」という表現を使ったが、ヒグマがかなり感情豊かな動物であることから、遭遇した瞬間からこちらの対応いかんでヒグマの心理をそれなりに誘導できる。仮に怒ったクマがいても、そのクマがいつまでもその怒りを維持するわけではなく、ヒトとバッタリ遭遇しビックリした状態からさらに切迫させることもできるし、落ち着かせることもそれなりに可能なのだ。まず、自分の心理コントロールをおこない、次に目の前のヒグマがどんな心理状態かをできるだけ読んで、こちらが好ましいほうへ心理誘導するという、二つの心理コントロールがヒグマとのやりとりの要の方法論になる。このページの4つの遭遇タイプは、ヒグマ側の心理状態・方向によって分類してあるが、対応方向も概ね4つあることになる。
 動物には不随意のコミュニケーション物質としてフェロモンというのがあるが、それ以外にも、ヒトが極度に緊張し切迫すると、例えばアドレナリンの血中濃度が跳ね上がる。そのにおいはおもに粘膜を通じて発散されるため、ヒグマほど嗅覚の鋭い動物はその物質を感知することが恐らくできる。そう考えざるを得ないほど、オオカミやヒグマにこちらの心理状態が読まれてしまう、あるいは切迫や緊張が伝染してしまうのだ。眼前のヒトにアドレナリンを感知したヒグマは、ヒトが交戦準備を整えたと捉えてもおかしくはない。すなわち、「自分の心理コントロール」というのは単に極度の緊張下で冷静な判断をするということではなく、正真正銘、平常心・不動心を保って自然体でおおらかにいるという状態に近い。その人の持つ先天的な気質もあるかも知れないし、心構え・覚悟もあるかも知れないが、ヒグマのことを知らず無闇に恐怖している人ほど、バッタリ遭遇時の自分とヒグマの心理コントロールは困難であることを覚えておいて欲しい。


ヒグマの走破性能・ダッシュ力はいざとなるとすこぶる高い。走って逃げ切れる相手ではない。 「追い払い」の最中、道と平行に左右に動き出したこのクマは、最終的に30mの距離から若グマ特有の中途半端な突進を開始した。 ビビッて切迫しているが、これ以上追い詰めるとbluff chargeがあり得る。

 ちなみに、科学の現場で「犬を怖れている人、あるいは感情的不安定な人ほど犬に噛まれる」という研究結果が最近出されたが(※)、恐らく、似通ったメカニズムが働いてのことと考えられる。
How many people have been bitten by dogs? A cross-sectional survey of prevalence, incidence and factors associated with dog bites in a UK community/ Carri Westgarth,Megan Brooke,Robert M Christley/University of Liverpool, Cheshire, UK 2018
LINK:https://jech.bmj.com/content/72/4/331
 私のいろいろな理解の方法論として、例えば「ヒグマを理解するのにヒグマだけを観察して」というのはあり得ないのだが、ヒグマを理解するための類推材料として何が適切かは一考を要する。ヒグマの知能はだいたいオオカミと同等で「イヌと霊長類の間」という表現を私自身はよく用いるが、オオカミの亜種イヌとヒトを、ヒグマを挟んだ類推材料に選んだ。狼犬をベアドッグに導入しを育成する利点は、じつはオオカミやヒグマに近い知能や感覚器官を持つ狼犬を注意深く(ときにかなり緻密に)育成し実際の現場で共に作業することによって、ヒグマがヒトを攻撃するメカニズムやヒグマを教育する方法論をも明瞭に示唆してくれるところだ。狼犬から得られた示唆は、実際の現場でヒグマに対して検証し信頼性を高めつつ、有機的にいろいろを結びつけて体系的理解まで持ち上げることができる。
 さて、上述のリヴァプール大学の研究チームのイヌに関する研究報告の大局は、私自身がアラスカと北海道でヒグマとオオカミを観察し、なおかつ狼犬のベアドッグで丸瀬布のヒグマをコントロールし教育しつつ体系化したオオカミ(イヌ)とヒグマの理解に整合性がとれ、むしろ包含しうる研究報告でもあるが、狼犬ならびに野生のヒグマとうまく関わるエッセンスの一つが、いささか非科学的表現として記した「不動心」「平常心」「おおらか」、はたまたそれを引き出すための「心構え」「覚悟」ということになる。また、「ヒグマを正しく知る」ということは、もちろん正しくヒグマとのトラブルを回避するために必要でありつつ、じつは、この動物をまともに知りもせず闇雲に怖れわざわざヒグマに攻撃のスイッチを押させてしまうことを回避するための大事な要素にもなる。
 とにもかくにも、精神的に不安定でヒステリックな人、あるいはイヌやクマへの理解を欠き無闇に漠然と怖れている人は、イヌに噛まれやすくクマにも攻撃されやすい。


大型オス成獣にありがちなbluff chargeのパタン
 捕獲一本槍で無闇にヒグマを捕獲しているような地域の周辺では若グマの活動数が増し、一時的にメスの比率が高くなっている場合があるだろう。(参照Link:ヒグマのアドバンス/捕獲リバウンド ヒグマ社会の攪乱)この場合、特に若いメスの行動圏は狭めで、年間を通して人里周りの数㎞四方で活動することが多い。メスが多いということは、交尾期の周辺(5~7月)にメスを求めて山塊のあちこちからオス熊が到来し徘徊するようになり、かなり奥山からも大型のオス成獣が入り込んでくる(丸瀬布「いこいの森」周辺でほぼ確認できているのは12㎞程度奥から)。結果的に、そのエリアでは一時的に山塊のヒグマが集結したような高密度地帯を形成するが、この比較的狭いエリア内にオスを避けて遠ざかるように動く子連れのメスや若グマ、メス熊を追う複数のオスがが混在するため、それぞれのヒグマにいろいろな心理が働いてふだん起きないことがあっさり起きることがある。大型オスのbluff chargeがそのひとつだ。
 この高密度地帯はもともと北海道にあった空間ではなく、特に2000年以降、箱罠の導入で無闇にヒグマを捕獲した結果特定の場所に現れた、いわば人為的に作られた空間である。今後とも、箱罠を乱用する限りにおいて、このような局所的ヒグマの高密度地帯は生じうるだろう。

 私の場合は各ヒグマの性格・性質を分析し危険度を判断するベアプロファイリングの反応テストをおこなわねばならず、前項で述べた「遇わないための戦略」をあえて用いないし、遇ってもいちいち相手をなだめて機嫌をとらないので、特に上述の時期・エリアにおいて大型オス成獣のbluff chargeに見舞われることがある。
 下の連続写真は、湯気の立つ新しい糞を見つけたため遭遇を狙って追って行ったときのものだ。もちろん、糞の直径から交尾のために遠征してきたオスであることはすぐわかったが、薮から飛び出したクマが思っていた以上に大型だった。正確にはわからないが350~400㎏クラス。体高は130㎝近い。このタイプのクマの一部は経験値と自信を持っていて、上述、交尾期の高密度地帯では「気持がハイになっている」と表現できる快活さを示し、同族のクマに対してはもちろん、ヒトに対しても傍若無人に振る舞う傾向が強くなる。こちらはこちらで信頼できるベアドッグ2頭を連れ、腰に2本のベアスプレーを差して迎撃態勢でいるため、どちらも引かずこの写真の形になった。
 私の調査エリアは「いこいの森」・マウレ山荘・白滝ジオパークの三つのアウトドア観光が集中するエリアのため、いかなる状況であってもヒトとの遭遇でbluff chargeをかけるクマは好ましくない。走って逃げるという最悪の行動をとってしまう観光客が想定できるからだ。
    
 このケースでは、ヒグマ側は口から白い泡を吹いて興奮しているが、お互いに本音では完全衝突まではしたくない。しかし、簡単に引き下がりたくもない。で、相手の力量を測るようなやりとりになることが多い。クマにとってのその方法論のひとつがbluff chargeでもある。
 じつは、このクマとのやりとりは糞を見つけたときから始まっていて、薮からコイツが飛び出て姿を現した段階でbluff chargeが来ると確信めいて思っていた。速やかに遠ざかりもしないし、本攻撃もないと。それで突進して来るクマに平然とカメラを構えたりできているのだが、結局このクマは位置や方向を変え3度のbluff chargeをおこない、最後に3mの距離で急転回して斜面下方に走り去ったまま姿と気配を消した。この1分か2分でだいたいこのクマの素性はわかり、もちろん私はそれ以上このクマを追う必要がなかった。交尾期の高密度地帯というシチュエーションと私の挑発的態度を考えれば、このオス熊は合格だ。ヒト側がきっちり配慮し注意すべきクマであって、教育を要するクマでも殺すべきクマでもない。

 さて、このケースで、まず遇いたくなければ新しい糞を見つけた段階で引き返せばいい。仮に引き返さず遇ってしまった場合、bluff chargeを避けたければ遭遇と同時に後ずさりして距離をとることだろう。それに失敗し突進が起きそうなら、real attackを想定し樹に回り込みスプレーを構える。4m以内でスプレーは噴射。
 このケースでも走って逃げたらどうなっていたかは、私も検証する勇気がなく、わからない。


「うつ伏せ防御」のタイミング
 「うつ伏せ防御」とは「合理的な死んだ振り」ととってもらってかまわないが、重要なのはそれをおこなうタイミングだ。ヒグマに遭遇したときに、無策のままその場に伏せて無抵抗を演じるものではない。ヒグマの攻撃がbluff chargeであった場合も、まだおこなうべきではないだろう。4つの遭遇型で様々な撃退方法・なだめる方法があるが、それをおこなってもヒグマの本攻撃が回避できないときのための戦略なので、ヒグマの攻撃がまさに自分におこなわれようとしたとき、この方法をとる。
 遭遇したヒグマがどんなタイプのヒグマかを見もせず「死んだ振り」「うつ伏せ防御」をおこなうと、特に若いクマの場合は好奇心・興味で近づいて寝転んだヒトを小突いたり噛んだりして物色する可能性もある。その物色で怪我をするケースも北米では多い。「最後の手段」というのは、なりふり構わず迎撃する姿勢だが、その一歩手前に「うつ伏せ防御」があると考えて欲しい。
 万が一、本当に現在の北海道では万が一の話だが、ヒグマの側に食欲が絡んでいると感じた場合、例えば、自分の身体の一部をかじり食べようとしているとか、無抵抗な自分をくわえて持ち去ろうとしたり、その場合は「うつ伏せ防御」などしているときではないので、下述の「餌付けグマ」対応にシフトする。・・・と、マニュアルではなるが、実際に異常なヒグマに食べられかけている状況で効果的に怒り狂えるヒトはなかなかいないかも知れない。

 じつは私自身「うつ伏せ防御」を用いたことがない。半ば偶発的にヒグマの爪がかする程度のことはあっても本攻撃らしい本攻撃を受けた例しがないからだ。曖昧にしていたタイミングに関して、ある日、知床の山中さんに指摘を受け、その後いろいろ考えてようやく正確にタイイングについて言えるようにもなったが、特に昨今人里周りで増えている2~3歳の無経験で学習途上のクマに対しては、私自身は仮に本攻撃でコンタクトに至ってもこの死んだ振りの戦略は持ち出さないような気もする。教育する側が死んだ振りでは洒落にもならないし。



2.「若グマ型」→様子を見ながら「相手にしない」or「ガツンと一発」

 若グマ型の特徴は、「ウロウロする(躊躇する)」「辺りをキョロキョロする(注意散漫)」の他、表情にその好奇心が表れる場合も多い。軽やかなステップでフラフラと近づいたりする個体は、ほとんどこのタイプだろう。このクマは、あくまで気分で動いているので、興味を失うとさっさとどこかへ行ってしまう場合も少なくない。
 この若グマが「無警戒に好奇心で動いている」ことから、こちらの戦略としては「警戒心を上げてやる」か「興味を削ぐ」か、どちらかの方向性がある。
 「興味を削ぐ」には、単純に「相手にしない」「無視する」という態度がある。立ち止まり目を合わすと、それですでに若グマとやりとりをしていることにもなるので、チラリと見てそのまま知らん顔で通り過ぎる方法だ。ほかの戦略は、これをまずやってみて、相手の態度・出方を見てからで遅くない場合が多いだろう。
 「ガツンと一発」が「警戒心をあげてやる」手法だが、これも中途半端にやると、若グマにとっては単に興味・好奇心をそそられたり遊びの相手をしてもらっていることにもなり、さらに接近して最終的にじゃれつきかかることにもなりかねない。仮に無邪気にじゃれつきかけた若グマにおこなうのであれば、あくまで「ガツンと一発」で一気に撃退する方法でなければ逆効果だ。


 鉈などの刃物を全否定するわけではないが、老若男女・年齢・腕力を問わず、精神的技術だけで誰にでも安定して効果の発揮できるベアスプレーを私自身携帯しているし、お勧めする。興味本位でヒトに近づく若グマに対してのベアスプレーの撃退率は非常に高い。(私が用いているスプレーはカウンターアソールトというものだが、北大雪における私自身のスプレーによる若グマの撃退例は20件弱、撃退確率は今のところ100%だ)
 ただし、遭遇したヒトをただ興味深そうに見ていたり、多少でも躊躇しながら近づく若グマなら、こちらの強い態度や音で威嚇することで逃げ去る場合がほとんどだ。イメージとしては、バッタリ遭遇で切迫したヒグマがおこなうだろうbluff charge。それを、ヒトなりに怒鳴り声を混ぜつつ棒や何かを使って荒々しく激しくおこなえば、若グマはおののいて逃げることが多い。2006年~2011年の6年間に100回ほどは若グマの追い払いをおこなっているが、ベアスプレーの消費は年間に1~3本。その他は、ほとんどこちらからのbluff charge的な威嚇で追い払っている。消費するスプレーの多くも、特に様子を見ながら忌避教育をおこないたくて、若グマが射程に入るまでわざわざ静観して噴射したものだ。※2012年以降、ベアドッグを追い払いの要に据えたため、ベアスプレーを用いる機会はなくなった。


       
  ヒグマが立ち上がるのは、その大半が攻撃のためではなく、曖昧な警戒心をもって興味の対象を確かめるため。手を高々と振ってやるくらいがちょうどいいマナーだ。 このクマは40mほどで遭遇し、やりたいように振る舞わせてみたが、好奇心が特に旺盛で、薮に入ってゆっくりと近づき、最終的にベアスプレーの射程内(4m)にまで入ってきた。
若グマ特有の軽やかなステップで接近。このタイプはあれよあれよという間に距離を縮めてくるので、スピーディーな判断が要求される。  
     
   
  顔はあらぬ方向を向いているが、意識はしっかりこちらに向けていると、右耳が物語っている。何か考え事をしているようにも見えるが、この状態からの突進が、若グマの場合は意外と多い。斜面上方のヒグマは特に要注意。 陽の昇り切った時刻になっても、このように姿を露わに農地で遊んでいるヒグマはだいたい経験不足で無知な若グマだ。いわゆる「異常グマ」ではない。 ヒトと関わる経験の乏しい若グマは、隠れる戦略もまだ未熟だ。逃げる姿にも、どこか無邪気で無警戒な感じが漂っている。ただ、このクマも追い詰めて切迫させ、本気で自己防衛本能を発揮させれば、ヒトは大怪我をする。  
   
  何やらおとなしそうで、かわいげなクマだが、私自身はこの手の若グマが大の苦手だ。何を考えているか、なかなか読めないからだ。ヒグマはオオカミのような社会的動物でないため、顔の表情によるランゲージにイヌより乏しくそこからは心理が読みづらい。 突然ササ藪に伏せて隠れた・・・つもりらしい。隠れ潜みのスペシャリストのヒグマだが、どうやら天性のものではないらしい。若グマはときにこのような滑稽な行動もとる。確かに、ササに隠れるのはいい方法だが・・・何かを見落としている。 こちらに興味を失い立ち去る若グマ。親離れ直後と見られる。親の顔が見てみたいが、ヒトへの警戒心はかなり薄い。穏やかで呑気な若グマだが、心を鬼にしてヒトへの警戒心を植え付けなくてはならない。  

ちょっと余談:若グマの経験と学習
 低いササに伏せて隠れたつもりの若グマの写真(上表最下段)だが、この写真を撮りながらあきれつつ私の頭にはいろんな事がよぎった。若グマの母親はある程度知っていて、まあいい母グマなのだが、仔熊の頃こんなふうに隠れてヒトの近くに居たんだなあ・・・とか。非常に意味深な光景なので少し拡大して載せておく。
     

 大型犬を仔犬の頃から飼ったことのある人ならわかるかも知れないが、仔犬期にトイレトレーニングというのをやる。ペットシーツを床に敷いておき、そこにちゃんと仔犬が来てCC(オシッコ)をするように躾けるのだが、大型犬の身体的な成長はものすごく速く、生後6ヵ月でだいたい成犬と変わらない大きさに成長する。一度完璧にできるようになったペットシーツへのCCが、だんだんズレるようになる。犬はそれを見て「あれ?」という顔を作るが、何度やってもズレたりする。毎度「あれ?」と顔を作っているうちに立つ位置を修正してまたちゃんとできるようになるのだが、要するに、自分の身体が大きくなってペットシーツからCCがズレるようになったところまで正確には理解できていない時期が存在する。
 ヒグマの学習も似たり寄ったりで、写真の若グマも「隠れる戦略」を学んだ幼少の頃なら、これで結構ヒトに気づかれないように隠れられていたのかも知れない。丸瀬布のハンターなどはこのクマなら見かけただけで問答無用で撃ち殺す、が、私の評価は少し違う。「隠れよう」という意識まで合格なのだから、あとはもう少し上手に隠れるよう学べばいいだけで、十分生かしてやれるクマ、いや、生きていてもらいたいクマだ。

追記)この若グマに関しては、これを成功体験としてそのまま学習させてもマズイので、多少にじり寄り怒鳴りつけたり何なりで後ろの薮まで追い払い、それ以上のことはしなかった。若グマは、CCがズレる若犬と同じ顔をつくったが、そのまま薮に逃げ去った。


若グマ特有の「中途半端なbluff charge」―――PlayCharge
 bluff charge(ブラフチャージ)と呼んでいるヒグマの行動は、よく観察・分析してみると、幾つかの心理的な原動力がるように思われる。通常、論じられるのは、ヒトとの至近距離遭遇などで切迫した気持ちから起こされる、まさに「威嚇突進」。これが、じつは完全衝突を避けるためのヒグマの対話方法だということは述べたが、上述のように、特殊な条件下で経験値と自信を持ったオス成獣がおこなうbluff chargeがある。さらにもう一つ、特に昨今の北海道で多いのではないかと考えられるbluff chargeに、私が「play charge」と名付けた突進がある。この突進のほとんどは、3~5歳のオスの若グマによって起こされる。
 ヒグマのbluff chargeの類型としては、概ね下の三つのタイプがある。北海道の場合、ヒグマが突進を開始する距離は、ほとんど50m以内だろう。少なくとも私が北大雪で経験するのは30~40m程度が多い。
※ただし、開けた牧草地で120mほどから歩いて距離を縮めていったとき、80m前後でbluff chargeが来るかな?と頭をよぎったことがある。検証がしきれていないが、牧草地なり河川敷なり見通しのいい場所では80mでもヒグマは切迫しbluff chargeを用いる可能性があるように感じている。

《bluff chargeの類型》
           TypeA:波状突進型で、ほぼ同じ方向から数度突進を繰り返すパタン
           TypeB:突進から方向転換をして、別方角から数度突進を繰り返すパタン
           TypeC:一度の突進から急停止して、その後、こちらの様子をうかがって用心深く歩き回るパタン
      

 いずれの場合も、急停止・Uターン・方向転換の距離は、ヒトから5~10mが多いように思う。TypeA・Bにおける突進回数は、経験からすると2~6回。これが延々10回も20回も続くようなことは、あまり考えにくい。
 いま問題としている若グマのplay chargeは、TypeAとBの形でおこなわれる。play chargeという呼び名が語るように、この突進には遊び要素あるいは自分の力とヒトを好奇心で試しているような要素が含まれる。つまり、心理的に切迫していないのだ。非科学的言い方になるが、切迫したbluff chargeに対しては「落ち着け!大丈夫。いいから落ち着け」となだめる気が湧くし、play chargeに対しては「おまえ、いい加減にしとけよ!」とたしなめる気持ちが湧く。もちろん、これはヤマカンで思っているわけではなく、ヒグマのボディーランゲージを無意識に察知し瞬時に判断しての結果だ。

 若グマは、とにかくtry&errorをおこなっている成長真っ只中のクマなので、様々な戦略を固定化させていない。固定化の前に「強化」という段階もある。「潜む戦略」では、潜みきれずに20m以上も離れた場所からコソコソっと動いてしまったり、あるいは、ヒグマの常套手段bluff chargeでも、じゃれつきなのか威嚇なのかはっきりしないものがある。半信半疑で試している、と表現するのが的を射ているように思う。real attackにも、突発的に自己防衛が働き相手を排除しようとした攻撃から、本当に相手を打ち倒そうとした攻撃まであることを示唆したが、bluff chargeにも、じつは幾つかの種類・段階があることになる。若グマは、bluff chargeをおこないやすい。しかし、そのbluff chargeが中途半端で、大して威嚇になっていない場合もある。「bluff chargeごっこ」「bluff chargeのトライ」と表現できる。
 特にこのplay chargeの前では、なだめるよりは、気丈に振る舞ったほうがいい結果が出せるように思う。私が心がけていることは、どちらかというとおおらかに声を出すということと、若グマがトントンとほとんど全力で加速し接近してきたときは、急停止・方向転換の行動が起きて、なおかつ視線がこちらに向いている瞬間に前へ半歩踏み出すこと。若グマに対して肩を入れて身を乗り出す感じだ。若グマがベアスプレーの射程を知っているわけではなかろうが、4~5mの距離で急停止してUターンしたり、急に方向転換して走り去ったり、そういう波状接近を何度か繰り返す。もしかしたら、私がその距離で踏み込むような動作をするからかも知れないが、とにかく、1度目の突進でUターンしたときは、2度目はむしろ余裕を持って待ち構える気持になっている。その構え自体が若グマを退けるのかも知れない。あくまで私見だが。いずれにしても、play chargeと見なした若グマの突進で、ベアスプレー噴射まで至ったためしがない。

 一般にあまり勧められる方法ではないが、かつて、若グマのbluff chargeに対して、こちらもbluff chargeで返して退散させたことが何度かある。若グマのbluff chargeの意味を少しでも正確に理解したくていろいろテストしていた頃のひとつの方法なので、いまはよほどのことがないともうそんな手法は持ち出さないが、突進を開始した若グマめがけてベアドッグが突進し返し、そのまま追い払うことはままある。
 bluff chargeがヒグマの対話方法だとすれば、その対話のスキルをちゃんと若グマにも身につけさせたいところだが、走って逃げるなど、その対話ができるヒトがあまりに少ないので、若グマにあまりその対話方法を持ち出させないように躾けたほうが現状としては安全だと私自身は考えている。

追記)
 ここで述べた「一歩踏み込む」という心理的戦略は、「来るなら受けて立つぞ」というボディーランゲージなのだが、play chargeのみならず、普通の歩調でこちらに接近する若グマに対しても功を奏することがある。しかしながら、他のタイプの遭遇でヒグマ側が切迫していたり、エサ絡みで執着や興奮が絡む場合は、それぞれ「なだめる」「さらに明確に威嚇する」という方向にシフトせねばならず、その判断を瞬時瞬時でおこなうことは通常困難なことかも知れないし、仮に判断しても突進してくるヒグマに踏み出すことができる人も、もしかしたら少ないかも知れない。ただ、簡単なマニュアルを確率論的・天気予報的に言うのであれば、50年前ならなだめる戦略が妥当だったかも知れないし、これだけ無警戒は若グマがウロチョロする現代では、もしかしてもしかすると、「肩を入れて一歩踏み出す」というのが適切なマニュアルかも知れない。play chargeの場合も、走って逃げるのだけは、やめた方がいいと思う。



3.「新世代型」(新世代ベアーズ型)→速やかに距離をとる(接近は厳禁)

 知床・大雪に出現している「新世代ベアーズ」は、要するに、多くのヒトに毎日のように接近しつつ危害を加えられないことを徐々に学習し、ヒトに対して無関心・無警戒となったヒグマの総称である。北米アラスカのカトマイ、マクニールなどのヒグマ観光の場では、ごく普通に存在するヒグマで、観光の立場から考えると必ずしも悪いクマの状態ではないと思う。しかし、その観光地を訪れるヒトの教育・コントロールを欠くと、一気に人身被害の危険性が増す。したがって、そのコントロールが高精度にできないエリアでは不用意にこのタイプのクマを生じさせない工夫が必要だ。

 ヒトに対して無関心で無警戒な行動をとるが、ヒトが大勢で囲んだり、騒いだり、あるいは接近したりするとストレスからにわかに威嚇方向に傾くことがあるため、100m前後まで距離をとり、クルマがあればそれを避難所として使い、静かに眺めるのが適切な観察法だろう。もし、クルマの運転中に新世代型が近くに現れても、窓は閉め、クルマからは軽率に出ないのが賢明だ。クルマの強化ガラスはしまった状態なら簡単に割られることはないが、少しでも開いていてヒグマの爪がかかれば、いとも簡単に割れてしまう。

 新世代ベアーズは、上記2.の若グマと似るが、若グマが無経験・無知によって無警戒なのに対し、新世代型は経験を積んで学習することによって無警戒になったクマだ。見分けはヒグマのボディーランゲージによってある程度可能だが、ヒトに対する「好奇心」という一点において両者は決定的に異なる。ヒトを意識しウロウロしたり、何かを躊躇したり、あるいは軽快なステップで楽しそうに接近するクマは単なる若グマ。ヒトを無視しマイペースで行動し、ヒトと関わりたくないようにしているのが人に慣れた新世代型と、だいたいの場合は判断できる。ただし、餌やり・餌付けが新世代型に絡むと、あたかもヒトに興味があるように接近してくる若グマもあるだろう。しかし、その多くは、過去に誰かによって与えられて食べた経験がある美味しい食べ物に執着しているだけで、ヒトそのものに好奇心・興味を示しているわけではない。

 まだ経験不足で警戒心が乏しい若グマタイプと、何かを学習して警戒心が乏しくなったクマの行動パタンをまとめると以下のようになる。



 先述の「伏せて隠れるクマ」に少し好奇心・興味が増した場合上図の1.になる。さほど珍しくない若グマの行動パタンだが、こっそりとこちらを覗いているクマをヒト側が認知できるケースが恐らく皆無で、トラブルに発展することもない。
 2a~3bは、好奇心でいえば「2<3」で、特に3は対応を迫られるため厄介だ。先述したように「4人以上」で行動していれば3の行動をとる若グマ自体が消せると思うし、ベアスプレーの撃退確率は先に示した通り(冷静に使いさえすれば)100%に近いだろう。丸瀬布において私が威圧・威嚇によってヒトへの意識改善を促す「忌避教育」のメインとなってきた若グマのタイプだ。
 4が、ヒグマの生息地内の観光エリアや都市部周辺などで「ヒトは無害」と経験的に学んだ新世代タイプだが、2・3の段階で教育をおこなうことによってこのタイプのクマが生ずることはほとんど防げる。(丸瀬布において立証済)
 5は、人為物による餌付けが疑われるクマ。(後述)

 ただ、新世代型で一つ注意すべきは、これらはある日突然新世代ベアーズに生まれ変わるわけではない点だ。新世代化する過程において、警戒心が徐々に薄れていく段階が必ず存在する。完全に新世代化し「ヒトは無害だ」と学習してしまえばいいが、その前の中途半端な学習段階では、無警戒と怖れが不安定な状態でせめぎ合い、近距離のヒトの前でにわかに怖れが上回り威嚇や逃亡に移るケースがある。
 また、知床自然センターの手前の幌別川にカラフトマスが累々と遡る時期にそこを遡行すると、何故か旧世代型の反応を示すヒグマが多く、これは岩尾別周辺の(人が行きそうにない)河川・林道・作業道を歩いても、同様のことが起きる。北大雪稜線筋の若グマとさして変わらない反応だ。もしかしたら、新世代ベアーズの多くは一面、観光客やカメラマンがのべつ幕なしに往来する特定の場所に対して慣れを生じさせている可能性、あるいは、クマの側が「観光客タイプ」としてヒトを見分けて臨機応変に対応している可能性もある。これらの真偽に関しては、私自身はヒグマの新世代化(無警戒化)をベアドッグも使って事前に阻止してしまっているためわからない部分も多い。知床あるいは大雪山系の研究者・対策官からの報告を待つのが妥当だろう。

 新世代ベアーズの存在は、知床などにおけるヒグマ観察・ヒグマ観光の可能性を立証したようなものだが、同時に、ヒグマに対する教育がいかに効果的にできるかを証明した存在でもある。

 
4.「餌付け型」→有利な条件をそろえ迎撃

 「餌付け型」には「こそ泥タイプ」からのエスカレートの程度に応じて、「つきまといAタイプ(物乞い)」→「つきまといBタイプ(ゆすりたかり)」そして完全におかしくなった「強盗タイプ」がある。つきまとい型は、さしたる問題も起こさず、ただヒトのあとをついてきたりする初期の段階があるが、これもいつどんなきっかけで強盗に変わるかわからないので、油断ができない。つきまとい型が強盗型へ変化する予兆としては、つきまとい行為がしつこくなった「ゆすり・たかり」の状態があって、これはだいたい躾のできていない犬が、躾のできない飼い主に対してだんだん図々しくなって牙を使って強引に何かを奪おうとするようになるのと同じだ。できだけ早い段階でガツンとやってやり意識と行動を変えさせるのがいい。

 エスカレートを起こした強盗型に万が一つけ狙われた場合、「なだめる」「無視する」「遠ざかる」「うつ伏せ防御」などの方法は通常通りには通用せず、衝突は避けられないだろう。避けられない以上、周辺の地形などを見てできるだけ有利に迎撃できる場所を見定め、スプレー、鉈、ピッケル、石、棒など利用できるもので撃退するしかない。
 私自身が常に念頭に置き恐れているのはこのエスカレートグマだが、このタイプに関しては存在すること自体が脅威となるので、「餌付けグマをつくらない」というヒト側全体の戦略が何より重要になる。今後の北海道でも、「餌付け・餌やりをしない」を観光客・住民・行政・ハンターなどそれぞれの立場で徹底していく必要がある。

 北海道の多くの人はメディアの影響でクマを漠然と怖れている。かなり過剰に、焦点が合わないまま。ヒグマを知らない人ほどヒグマを見境なく危険視し声高に「殺せ」と言う。が、それと裏腹にその人はその動物を知ろうとすることがほとんどなく、この動物が可能性として持つ本当に危険な状態をイメージできていない。実際、ヒグマなどというのもはちょっと大きなタヌキのようなもので、ヒト側が守るべきことを守り、すべきことをしていれば、周りにいたからといってそんなに危険な動物とは言えないと思う。タヌキだって、うちのベアドッグがからかえば鼻づらに噛みついてくる。キツネもシカも、追い詰められれば攻撃に転じたって不思議ではないし、仕方ないことだ。ただ、攻撃性自体が極めて低いにもかかわらずいざとなったときの攻撃能力が高いため、クマだけは一定以上の大きなミスを重ねられない側面がある。もしクマを怖がり危険視するのであれば、「人が何をやってはいけないか」に焦点を定めるべきだろうし、「どんなクマが本当に危険か」を整理して正確に認識することが何より大事だと思える。しつこいようだが、私自身は「餌付け・餌やり」が異常な危険グマをつくる最も効果的な方法だと思っていて、もちろん私自身は銃器なしにそのヒグマに対抗する手段を持っているが、エスカレートまで起こしたヒグマを想像すれば、地域としてはそれこそモンスター級に危険で厄介だと思う。かなり昔になるがやはり知床の山中さんがヒグマへの餌やりを「殺人幇助」という言葉で表現し物議を醸した。その言葉の響きに過剰反応した方もいるように思うが、殺人というより一種のテロリズムだ。クマとヒト双方に対しての。現代は、それを容認できる社会・時代ではないと思う。

時間稼ぎの方法?
 遭遇したヒグマの気を引くためにザックを投げて時間稼ぎをするという方法が言われることがある。これには絶対的な条件があって、そのザックに少しでも食糧が入っている場合にはやってはならない。釣り人がクルマに帰るときにクマに出遭い、釣ったサケを放り出して走って逃げ帰ったという例まであるが、その人が仮にそのまま逃げ帰ったとしても、その後にそこを訪れるヒトを危険にさらす。これは食べ物の入ったザックで気を引くのと同じで、それをされたクマは、「ヒトの前にドーンと出ると、おいしいものを置いていってくれる」と学習し、その行動をヒトに対して繰り返すようになるかも知れない。じつは、これは一種の餌付け・餌やりだ。これにもエスカレートが考えられ、はじめは「物乞い」か「ゆすり・たかり」程度かも知れないが、何かの拍子に強盗タイプに変貌する恐れがある。ヒグマに対する餌付け・餌やりは、ベアカントリーでは禁じ手だ。
 もしどうしても気を引いて時間稼ぎをしたければ、あくまでヒグマの好奇心に訴えかけるもの、食べられないもの、例えば首にさげたタオルとかカメラとか、そういうものなら時間稼ぎもあり得るかも知れない。
 




まとめ)
 1~4で共通するのは、「グループがコンパクトにまとまり、決してばらけない」ということ。クマとの遭遇では、単独行動より数名のグループの方が、心理的にも物理的にも、はるかに対応は容易になる。ただ、それぞれが「クマの心理に働きかけ」の前に自らの心理コントロールをしっかり行う必要はある。逆に知床の岩尾別に見られるように大人数でクマを前にすると、必然的に群集心理が働き、独りで歩いているときの用心深さや怖れを忘れてしまう傾向がある。謙虚さを忘れないよう。
  
 最も代表的な4つの遭遇タイプについて方向を示したが、実際の現場では、仮にクマと静かに対峙した状態が続いても、速やかにどのタイプのクマか見分けられないことも多いだろう。なので、最悪の「餌付け型」を念頭に置きつつ、まず「バッタリ遭遇型」の対応をとりクマの反応を見て、クマ側の態度や出方によっては「若グマ型」対応にシフトするという、臨機応変なクマとの「やりとり」を行うことになる。これが、先述した遭遇時におけるフィードバックループだ。

 足早に書き進めてきたが、クマが存在する限り、山でクマと遭遇し怪我をする人はなくならない。が、それは渓流で転んで怪我をするのと何ら変わらない。転ばないコンクリで川を固めることがどれだけ愚かなことか、私たちは既に知っている筈。クマはヒトが対応を間違えば危険性のある動物でかまわない、いや、そうあるべきかも知れない。
 豊かな山があり森があり川がある。そしてそこには怪しげで恐ろしげで素晴らしげな野生動物が暮らし魚が泳ぐ。そこへ踏み入って山や川の豊かさを感じ享受する。少しだけいただく。それが、自然を楽しむ極意なのだと私は思う。


ようこそ、ベアカントリーへ!




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