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Pet4You.jpのエコ活動
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ベアドッグ/拠点紹介



 紆余曲折を経ながら2017年を境に任意団体に戻り本来のスタンスを取り戻した羆塾は、スタンスは設立当初から変わらず「風林火山」を旨としたが、風雲急を告げる北海道のヒグマの状況に対しては疾風の如く動かねばならない状況にあった。第二世代のベアドッグのプロトタイプをつくることで、その方法論の可能性を提示する方向で動いた。そこには、ヒグマ対策に最適化した犬種の作出という大問題が横たわり難儀が予想されたが、各所の励ましと理念・感覚を共にする賛同者の力を借りて新たなるトライを開始した。

 2006年からはじめた「若グマの忌避教育」を中核としたヒグマ対策は、ベアドッグの導入によって極めて良好な結果をもたらしたが、2018年、本州方面からにわかにレジャービジネスの参入者があり「いこいの森」周辺の土地をヒグマへの認識や理解がないまま大規模に買い占めたため、従来おこなって来た調査・対策はおこない難くなった。ヒグマの活動を無視した強引なビジネス参入は非常に危険で周囲の観光客・住民をも巻き込む形になりかねないが、それを規制する現行法が日本には存在せず、残念ながら誰にも止められるものではない。
 中途半端な調査でヒグマ対策をファジーにおこなうことのリスクは重々承知していたため、2022年を境に丸瀬布の対策エリアでのヒグマの忌避教育を終結し、ベアドッグや忌避教育不在の環境でどういう変化があるかのモニタリングに切り替えつつ、ベアドッグの活動・普及を他地域へ移す方針を固めた。

 ベアドッグに関しては、対ヒグマの能力は実証できたが、そのほかの点ではまだまだ課題はある。恐らく延々尽きることがない。その課題を一つ一つ解決しながら、その技術の受け渡しも考えねばならない。
 当面、無警戒型のヒグマの問題が高じている札幌・旭川などの都市部での導入を視野に入れた。特に旭川市においてはヒグマ対策の体制も整っておらず、人材も何も不足していることから、旭川および周辺での活動を念頭に置き拠点を一つ作るのが合理的と考えられるが、そこをベースに上川盆地での成功事例をしっかり作り、科学的な検証もおこなって、その結果をもって道内各地への普及をめざすスタンスだ。

 また、2022年、道庁の「ヒグマ緊急時等専門人材派遣事業」において「ヒグマ専門人材バンク」に登録され、専門技術として「ベアドッグ」が記載されているため、道内各地のヒグマ問題に対して的確な助言をおこなうとともに、ベアドッグを駆使したアシストを要望に応じて確実におこなっていきたいと考えている。



活動拠点(ベース)

■湯ノ沢ベアドッグベース:
所在地:遠軽町丸瀬布上武利438
携帯電話:090-2072-2959(岩井)
e-mail:alpha@beardog.jp
Website:www.beardog.jp






 北大雪山塊の麓に位置し、2005年羆塾発足時から周辺10㎞以内を中心にヒグマの各種調査がおこなわれ、合理的なヒグマ対策の模索がおこなわれてきた。この谷は古くからのやまご(きこり)には「クマの巣」と呼ばれるほどヒグマの活動が多い場所である。2009年からはその谷の環境を生かして魁と凛2頭のベアドッグの育成をおこない、普及活動の拠点ともなった。2018年からは、プロトタイプとして期待をはるかに越えた能力を発揮したベアドッグチーム魁と凛のフィードバックとして、ベアドッグの一般化・普及・人材育成の拠点のひとつとなる。


■旭川ベアドッグベース(計画中)
所在地その他、未定。










 2022年より旭川市のヒグマトラブルに対して依頼を受け、幾つかのケースに対してアシストをおこなって来たが、旭川市の専門家の不足を感じたため、北大雪山塊・丸瀬布において洗練し完成させたMSBD(マグナムシェパード・ベアドッグ)の活動を旭川に移動する計画に着手した。拠点となるベアドッグベースをはじめ詳細はまだ不確定。

 10年来当麻町のヒグマの動向に関して調査をおこなって来たことと、旭川周辺で最も厄介な問題を抱えている地域であることから、下図のエリアに焦点を定めている。
 このエリアには農業被害が慢性化しつつあるペーパン川中流域と21世紀の森・桜岡・旭山の観光エリアが混在し、無警戒型のヒグマと餌付け型のヒグマが入り乱れるエリアだが、20年近く関わった丸瀬布の対策エリアと非常に似通った構図があるため、むしろ違和感なく取り組める場所だ。調査・対策ともに、旭川市と当麻町をまたいだ空間でおこなうことになる。





羆塾のベアドッグ(BD)とコンパニオンドッグ(CD)

 羆塾では、ヒグマ対策に最適化した犬種を作出し、幼犬の頃よりやはりヒグマ対策に特化した躾・訓練をほどこしたベアドッグを調査から追い払いまで様々な場面で利用している。ベアドッグの適性を持つ犬は非常に限られ獣猟犬・狼犬・護羊犬などの一部が候補に挙げられるが、猟犬ベースのベアドッグは北米などですでにトライされており、羆塾ではさらなる可能性を見出し2009年に狼犬を採用した。狼犬というのは、犬の脆弱性・能力低下を補うために原種オオカミの遺伝子を再度交えた犬種群のことで、比較的ベールに包まれている。
 ただ、犬種の作出にあたり様々な検証や試行錯誤を必要としたため、初代ベアドッグチームの魁と凜が予想をはるかに超えて素晴らしい結果を出してくれた一方、2009~2023年までの間に育成に取りかかった全個体14頭の約1/3が育成段階で気質・訓練性能のどちらかで引っかかりベアドッグ育成ラインから外し、私の元で生涯を家庭犬(コンパニオンドッグ:CD)として暮らす犬となった。
 作出当初においては特に、同胎のばらつきも比較的大きく、すべての仔犬がベアドッグとして育成できない現状は致し方ないことと考えている。ベアドッグは警察犬・災害救助犬などと同様使役犬ではあるが年間を通してヒグマ対策をおこなう専門家と毎日の暮らしを共にする相棒・家族の意味合いが強く、仮にベアドッグを落第しても、ふだんの暮らしはベアドッググループと家庭犬グループは分け隔てのない家族としてのものになる。もちろん、ベアドッグは引退後もハンドラーの元で生涯暮らす。

 未知数の犬の作出から始め、未知数の使役犬の育成をおこなうことは不確定要素が大きくとても難しかったが、とにもかくにも15年近くをかけて魁と凜に続く第二世代のプロトタイプが完成し、普及&実用段階に達したと考えている。

「狼犬」という表現について

 「狼犬」「ウルフドッグ」というのは、定義としては、オオカミをヒトが家畜化して「イヌ(イエイヌ)」となったものに、原種オオカミの血を入れたもの。日本で「狼犬」「ウルフドッグ」と呼ばれる犬種群は、英語では「wolfーHybrid」と呼ばれ「イヌの血が混ざったオオカミ」というニュアンスになる。
 生物学的にはどれもCanis Lupus(タイリクオオカミ)に属する。通常用語としてイヌのことをオオカミとは表現しない習慣になってはいるが、すべてのイヌは立派なオオカミで互いに同種ということになる。亜種関係になるため交雑・交配が可能で、自然界でもブリーディング界でも混血・ハイブリッドが容易に生まれる。いずれにしても、狼犬というのは、「自然種オオカミと家畜種イヌのあいのこ(混血)」という意味になる。
 今後、世界のオオカミと犬種の遺伝子データが蓄積されていくと、遺伝子的な検査ではっきりするケースも出てくることが予想されるが、現状において、ある犬が狼犬であると断定できるのは、血統を過去にさかのぼって、何らかのイヌにオオカミの血が混ざったと証明できるケースに限られる。例外的に、FCI(世界畜犬連合)認定犬種のチェコスロバキアンウルフドッグとサーロースウルフドッグに関しては、その血統書から「狼犬である」と保証されているが、FCIに認定されていない狼犬は雑種犬で血統書を持たないため、その確認がほとんどできない。

 要するに、日本における狼犬というのは、そのほとんどがブリーダーの言い値で、実際は狼犬かどうかわからない存在なのだが、ほんの20年ほど前まで北米あたりから純粋なタイリクオオカミが雑種犬として日本国内に持ち込まれていた例なども幾つか確認されているため、あながちブリーダーの言う「狼犬」も非公式ながら間違っていない場合がある。
 そのような曖昧な意味を持つ狼犬だが、狼犬として販売されていた自分の犬に対して、血統的なさかのぼりをおこない確認を試みたところ、どの犬もほんの1~2世代前でまったく血統を追えなくなった。つまり、確かにブリーダーは狼犬と表現するが、実際は「よくわからない」という困ったことになったわけだ。

 幸いにして自分はアラスカにおいて野生のオオカミを身近に観察した経験があり、その経験と一般的なイヌを比較して「オオカミ特性」というものに注目した。過去のどの段階かでオオカミの血が入り込んだ狼犬かどうかより、オオカミの特性をどのようにどれだけ持っているかのほうが重要と結論したからだ。
 柴犬・紀州犬・アイヌ犬・四国犬・秋田犬、そしてカレリアンベアハウンド・ライカなどはFCI第5グループ(原始的なイヌ)に含まれオオカミ特性が強めの犬種群だが、私の犬はさらにその特性が強いことがわかり、真性の狼犬である可能性が比較的濃厚となったため、法的あるいは行政的には単なる雑種犬にしかならないが、このサイトでは「狼犬」と表現することにした。その曖昧な点をご了承願いたい。


2009~歴代犬の紹介


Beardog01・魁(KAI)♂ 2008年11月19日生まれ~2016(秋田・Seriors Story) 


 「若グマの忌避教育」と称して2006年から開始した若グマの追い払い(教育)は轟音玉・威嚇弾・ベアスプレーなど考えつくあらゆる方法を用いておこなったが、それぞれに補い難い弱点があり、また調査やパトロール・追い払いの作業自体がかなりリスキーなものとなって踏み込めない領域を感じていた。
 道内各地の都市部や観光エリア周辺で無警戒型のヒグマが問題を起こし始めると予測し確信を持ち始めていた2008 年の夏、旧白滝の農地で若グマの追い払いに失敗し射殺判断をしたのを機に、ベアドッグ導入に踏み切る決断をしたが、ヒグマ対策に犬を伴うのは合理的だとわかっていても、未知数の多い狼犬の扱いはすべてが手探り状態必至で、満を持してというのが正直なところだった。
 初代ベアドッグの魁は予想・期待をはるかに上回る能力をヒグマ作業で発揮し、同時に、極めて優秀なオスアルファとなった。繊細なところを持つ反面、天真爛漫で人懐こく甘えん坊なところは、現在なお、私のベアドッグの理想像と考えている。

Beardog02・凛(RIN) ♀ 2010年1月生まれ~2017(千葉・USK)

 魁のアシストをおこなうパートナー犬として魁が来た翌年に迎え入れたメスで、魁と私で手分けしてベアドッグとして育てることができたというのが本音だ。生後2ヵ月でここに来た当初は、驚くほど気が強く頑固なところもあったが、成長するにつれこちらの意を汲んで行動できる犬になり、魁の最良のパートナーとなった。
 もともと警戒心が強くシャイ気質を持っていて、幼少の頃は「ビビ凛ちゃん」とも呼ばれていたが、私に突進を開始したオス熊に対して間髪入れず割り込んで突進で返し、そのまま斜面上方に追い払い切ったのは凛が1歳になってしばらくした時だ。その出来事のあと凜は自信をつけ、私は「ビビ凛ちゃん」と呼ぶことは二度となかった。
 ヒグマに対して物怖じせず立ち回る姿は、メスながら雄々しい。また、狼犬としては小柄ながら後続犬の厳しい母親役も担った。


CD North(ノース)♂ 2011年4月生まれ(千葉・USK)

 魁と凛の成長が評価されブリーダーから贈られた個体だが、「限りなくオオカミに近い」と言われつつ、血統図がないためそのオオカミ率その他に関してはわからない。「これはオオカミだ」との意見もあるが、正直なところ、現段階でオオカミともそうでないとも科学的レベルで断定できない。
 魁や凛はその運動能力においてジャーマンシェパードやオーストラリアンシェパードを優に上回るが、その魁や凛が足元にも及ばない規格外の運動能力を持っている。高さ225㎝のシカ用ネットフェンスを三歩の助走で笑いながらワンタッチで越え、林道なら時速70㎞に迫るスピードで走る。規格外の運動能力に加え非常に高い知能・感覚器官を持ちヒトとも繊細なやりとりができる一方、臆病で警戒心・自我・自立心が強く、そこがネックとなりベアドッグとしての育成は早い段階で断念した。ノースの知力・感覚能力・身体能力を持つ相棒ができたらどれほど素晴らしいかとつくづく思うが、なかなかうまくいかないものだ。

 トマトの原種というのは非常に高い栄養価を持っている反面、小さくて美味しくもないと聞いたことがある。ヒトが大きくて甘いトマトを欲したため品種改良が盛んにおこなわれ、現在は数百種の品種が世界にはある。イヌとその原種のオオカミにもまったく同じことが言えるが、大きくて甘いトマトを作る際に犠牲にした栄養価が求められる状況というのがあって、ヒグマ相手の作業というのがまさにそれにあたる。狼犬は確かにヒトが気軽に食べて美味しく甘いトマトではないかも知れないが、自然の合理性を踏襲した卓越した能力を潜在させている。


CD Rhea(レイア)♀ 2013年4月生まれ~2015(千葉・USK)

 ノース同様ブリーダーがハイブリッドウルフと呼ぶ狼犬のラインだが、幼少の頃、脳にダメージを負い手足が不自由で目もほとんど見えないハンデを背負った。MRIなどの精密検査を受けた北大動物医療センターで先天的な脳の異常が判明し獣医は殺処分を提案したが、私はそれを拒否してうちに迎え入れた。
 狼犬はオオカミの社会性を色濃く引き継ぎ「孤立」が最もこたえる犬種のため、魁・凛・ノースのパックに入れ、分け隔てなく育てた。もちろん、当初からベアドッグとしての教育はせず、家庭犬として暮らしたが、何をするにも純粋無垢でまっすぐ。そして何より生きるエネルギーをレイアからはひしひしと感じた。私はどの犬からも多くを学んできたが、最も本質的なことを教えてくれたのはレイアかも知れない。獣医の予測通り長生きはせず2歳でレイアの命は消えた。   


Beardog03・竜(RYO)♂ 2015年1月生まれ(千葉/USK)

 ノース・レイア同様、USKからベアドッグに育成するよう贈られた個体。生後1歳になった頃、ヒグマの「冬眠穴荒らし」をマイブームとしてしまい、冬眠明け間近の裏山のヒグマをかたっぱしから叩き起こして蹴散らかしまくった。その後も春先になるとその「ヒグマ遊び」でワクワクするらしく、その時期の訓練はヒヤヒヤの連続だったが、結局、竜は他界するまで一度もヒグマの攻撃を受けることなく、チャンスとあらばヒグマ遊びを楽しんだ。
 竜はつかみ所のないイヌ的な部分と臆病で警戒心が強いオオカミ的な部分がそれなりにバランスされているように思うが、ノースやレイアに比べると要領がいい。その賢さをいいほうへ向けられれば、魁の後継犬として優秀なベアドッグになっただろうが、竜が生後二ヶ月でここに来た2015年、管理上の内部事故が生じ必要な時期に必要な教育をおこなえなかったことが起因し、ベアドッグへの育成は最終的に断念した。
 ただ、竜の気質はクマ撃ちが「この犬は優しすぎるね」と揶揄するほど穏やかでありながら、実際は強くしなやかで、ベアドッグとしての才能はノースに迫るほど素晴らしかった。骨格構成や身体能力も抜群だった。驚いたのは、箱罠で捕獲されたばかりのヒグマのほんの1mの距離でまったく興奮することもなくニュートラルな状態をつくり、ニヤニヤ笑ってそのヒグマをからかうような態度をとったことだ。そんなことのできる犬は、見たことも聞いたこともない。さすが仔犬時代に冬眠穴暴きでヒグマ遊びを覚えた犬だと感心したが、竜はその後、羆塾のベアドッグの基礎となり、現在羆塾にいるすべての犬に竜の血が脈々と流れている。


Beardog04・愛(Ai)German Shepherd ♀ 2017年4月生まれ(オーストラリア/Von Darcor)


 オーストラリアでは、広い放牧地の羊の管理を任されるハーディングドッグとしてジャーマンシェパードは本来的な使役犬として用いられるほか、警察犬として高度な作業を要求される傾向が強く、数は少ないながら一部のブリーダーは本家ドイツやチェコスロバキアから親犬を輸入して基礎とし、それぞれの理想を求めてブリーディングがおこなわれている。
 その犬舎の一つがVon Darcorであり、愛(Ai)は2018年2月日本へ入国し厳冬の丸瀬布湯ノ沢ベースに迎え入れられた。

 愛の訓練性能は世界でも一級で舌を巻くほどだった。もちろん遺伝子疾患も持たず、運動能力もGSDとしてはすこぶる高かったが、何よりも私が気に入ったのは、その天真爛漫で素直な気質。こちらが与えた課題を何でも一生懸命やる真面目さもあり、また先住犬のノースと竜も愛をすぐ受け入れ、我が子のように可愛がった。
 じつは愛のほかに、ドイツとチェコの名門犬舎からそれぞれ1頭のメス(レックス・サラ)を日本に入れたが、ベアドッグ・ラインの基礎として決め手となったのは、やはりこの気質だった。ベアドッグに最適な犬種をつくる上で、まさにこういう犬を望んでいた。


 愛は特に訓練を入れられず生後10カ月でここに来たが、そこからたった4カ月でヒグマの追跡から追い払いまでをおこなえる犬に成長した。それは恐らくベアドッグ育成の最短記録で、今後更新されることはないだろうが、逆に、実地訓練やテストを進めるにつれGSDの能力的限界が随所に確認され、対ヒグマ作業の相棒犬としては不足を免れないことが判明した。犬の本質的な能力を超え対ヒグマ作業に従事させることはすべきではないし、ヒグマの作業はギリギリできていればいいわけでもないため、愛を含めたGSDの利用はあくまでベアドッグのアシスト犬に留める判断を下した。

 日本やヨーロッパでは普通、訓練系のジャーマンシェパードは訓練競技会や警察犬の資格取得が目的化しているが、オーストラリアの面白いところは、犬の価値や目的が本来のジャーマンシェパードに近く、あくまで警察・放牧の実践的な活動であることだろう。ドイツやチェコに比べIPO(国際訓練試験)類の訓練資格への依存度が低く、実践の現場で犬は評価され、繁殖に用いられる経路が存在している。VonDarcorの犬がその典型で、原則IPOの資格を取得していないにもかかわらずポリスドッグ、ハーディングドッグとして現場から信頼され、また家庭犬としても非常に成功している。私自身、高いポテンシャルを持つ訓練系のシェパードを訓練競技の世界に閉じ込め生涯をそこで送らせることには違和感や反駁を感じてきたし、訓練が目的化していないこの実践的なスタンスには共感できる。



※プロテクション(Protection):
 日本で・追求(tracking)」「服従(obedience)」とともに「防衛」として訓練課題でFCIのIPOでは基本課目となっているが、多くの犬がこの三つの課題を訓練し、だいたい生後1歳半でIPO1を取得する。が、プロテクションはあくまでヒト相手の訓練で、ヒグマに対して決しておこなってはいけない行動のひとつ。私の知る限り、優れた訓練競技犬がヒトに対して攻撃的という例はないが、できれば生涯忘れてもらいたい行動パタンのひとつだ。オオカミの血はヒトによってイヌに与えられたこの攻撃性を明らかに低下させる効果があるが、ベアドッグにはBH(同伴犬訓練試験)的なヒトに対する親和性・柔和性のほうがはるかに重要な要素になる。
ex)プロテクション訓練(Lex生後9ヵ月);https://www.youtube.com/watch?v=J8tBtQcMnno)

※二種類のジャーマンシェパード
 日本でシェパードというとブラック-タンのどっしりした感じの犬を思い浮かべると思うが、ジャーマンシェパード自体がWorking dog(訓練系)とShow dog(ショードッグ系)にきっちり分けられて繁殖がおこなわれ、原産国ドイツをはじめチェコなどヨーロッパの国々、オーストラリアなどで訓練系の中からブラック-タンの個体を探すほうが難しいほどブラック~セーブル系の個体が占めている。愛はセーブルと呼ばれる毛色で訓練系シェパードの外見としては比較的平均的な個体。
 愛のブリーディングライン(血統図)に関してはこちら(png)を参照。



MSBDの作出

 対ヒグマ・ベアドッグのプロトタイプとして育成した初代ベアドッグチーム「魁と凜」は、あらゆるヒグマ作業において期待をはるかに超える能力を発揮し、ヒトに対しての親和性・柔和性も十分獲得していた。そのため、その後の狼犬の育成は、とにかく魁に近づける方向を理想とした。ただ、魁と凜とも遺伝子疾患が確認されたため、将来的なベアドッグラインの基礎にはできなかった。
 10年間の活動経験を元に、対ヒグマ作業に特化したベアドッグの犬種を作出しなければならないが、オス側に、イヌとしては規格外の知能や運動能力を持つ竜(Ryo)、メス方に世界から選んだ3頭の訓練系GSD(ジャーマンシェパード)から最終的に選んだ愛(Ai)を据え、ベアドッグの犬種としての最適化を図った。この組み合わせから発する犬種をMSBD(=マグナムシェパード・ベアドッグ)と呼ぶこととした。

 2015年にUSKから贈られた竜は、GSDに比べはるかに知能が高く身体能力に勝るが、総じてオオカミ特性が非常に強く、「ヒグマの前で冷静でパニックにならない」という性質は特筆すべき点だ。さらに、通常犬と比べてランゲージ(言語)を多く駆使でき、ヒトとも繊細なやりとりを緻密におこなうことができる。また、オオカミ譲りの「ヒトに対してもクマに対しても攻撃性が低い」というところがベアドッグの基礎として理想的な点でもあった。
 とにもかくにも犬としては規格外甚だしいため、驚きと尊敬を込めて「変態領域の犬」「変態犬」などと呼んでいる。

 一方、オーストラリアで繁殖された愛は、間違いなく世界でも一級の訓練系GSDだが、その訓練性能もさることながら、天真爛漫で真面目な性格がベアドッグの基礎として選んだ最大のポイントになった。もともとヒグマの活動域ではクルマから降りたがらないという行動パタンがあり、一見臆病に見えたが、「ヒグマの恐さを本能的に知る」という点で、むしろベアドッグとしては好ましい性質と考えられた。
 ただ、知力と運動能力・嗅覚と聴力・やりとりの繊細さなどにおいて犬種としての絶対的な不足が目立ち、最終的にGSDにおいては、ベアドッグのアシスト犬として用いる方向になった。


 繁殖は、まずこの2頭の相思相愛をつくるところから丁寧に始めた。ただ、オオカミ特性の強い犬をパック飼いしている場合、別所から無関係な犬をにわかにそのパックに放り込んでも受け入れてもらえるとは限らず、新参個体を殺して排除するケースもたびたび耳にする。そういう流れを回避するために、二つの要件を盤石に揃える計画を何年もかけて着々と進めた。つまり、「そのパックのすべての個体の気質を天真爛漫に優しく育てること」と「私が超アルファとして信頼と尊敬を獲得し、きっちりパックを統率すること」。その二点が揃えば可能なことだ。そう確信していたが、やってみないとわからなかった。
LINK:アルバム『竜と愛の相思相愛づくりの頃』 竜と愛の初対面から交配までの育成日誌からの抜粋写真と説明。

 オオカミ特性を適切に取り入れたMSBDの作出にあたり、まず、GSDの特性を十分知る必要があった。また同時に、すべてのイヌの原種であるCanisLupus(オオカミ)の特性を深く知る必要も生じた。その手順としては以下の三つになる。
1。訓練系GSDのベアドッグを育成し、実地で検証を通してGSDという犬種を深く知る。
2。ハイブリッドウルフと命名された極めてオオカミに近い個体をテスト観察しオオカミをより正確に知る。
3。1と2で得られた理解をもとにMSBDを作出し、そのMSBDの育成方法・用い方などを総合的に確立する。


 オオカミ特性とは?
 オオカミという響きにはヨーロッパ由来の童話や逸話の影響から「凶暴・どう猛」というイメージを持つ日本人が多いが、野生動物としてのオオカミはヒトをほとんど攻撃せず、またヒグマに対しても攻撃性が極めて低い。
 オオカミが他者への攻撃に転ずるときのパタンは三つあって、まず食物を確保するためにシカやサーモンやネズミを捕獲する場合。これは一気に仕留めにかかる「狩り」であるが、原則的に、ヒトとヒグマはどちらもオオカミが捕食する対象としては認識されていない。
 二つめは、シカという食物を競合しているヒグマを追い払ってシカを確保する場合。シカを食べているヒグマがあればそれを追い払って確保しようとし、自分らが確保したシカからはヒグマを遠ざける。
 三つめは、希なケースではあるが、生まれてしばらくの仔オオカミをヒグマが捕食しようと巣穴に近づく場合と、逆に仔熊をオオカミが補食しようとする場合。やはり接近するそのヒグマを追い払ったり、母グマを牽制するために攻撃的な態度をとり、あわよくば母グマから離れた仔熊を仕留めて食物とする。
 なお、オオカミ同士のいざこざ・争いに関しては「テリトリー」というシステムによって事前に衝突が回避されている。その野生界のルールを無視してテリトリーに侵入する犬に対しては、ストレートに攻撃性が発揮される場合もある。

 これらのことから、オオカミのヒトとヒグマに対する攻撃性は極めて低く、またヒグマに対しては「追い払い」という本能的行動が強く残っているということが言えるが、ベアドッグはそのオオカミ特性を最大限に生かした方法論ということができる。一般的な通常犬・純粋犬種がベアドッグに向いていないのは、この重要なオオカミ特性が長年の間にスポイルされてしまっているからでもある。

 あくまでGシェパードとの比較になるが、「オオカミ特性」をざっと書くと、
 ・知能が高く、警戒心・感受性が強い
 ・自我・自立心が強く、犬のように自動的にヒトに従属する性質は皆無
 ・(有事のアドレナリン分泌量が多く)切迫した状況でもパニックに陥らない
 ・嗅覚・聴力が極めて優れる
 ・パック(群れ・チーム)としての連携が強い
 ・身体能力が極めて高く、活動する場所の地形・植生を選ばない
 ・瞬発力が高く、イヌにはないトリッキーな動きを高速でおこなえる
 ・手が器用で指が長く、ものを掴むこともできる
 ・身体的持久力に加え、心理的な集中力の持続が桁違い
 ・意思疎通のための言語を多く持つ=ヒトとも繊細なやりとりをおこなえる
 ・スイッチがオンオフではなく、繊細な可変スイッチになっている=指示やTPOも細かくできる
 ・相手の心理の洞察力に長ける(ヒトやヒグマの心を見抜く)
 ・攻撃性は低く逃亡側に心理が傾くが、いったん攻撃に転じた場合の攻撃力は高い
 ・大型・頑強・自然治癒力が高い 
 ・穀物を消化しにくい(一般のドッグフードだけでは下痢を起こす個体が多いが、肉・骨・皮類の消化能力は高い)
 ・体臭は犬と異なる(どちらかというと動物園のにおい)
などが挙げられる。もちろん一定の個体差はある。

 これらの要素はベアドッグのポテンシャルとしては総じてポジティブだが、例えば「知能が高く、警戒心・感受性が強い」「相手の心理の洞察力に長ける」が合わさると、形式的な犬の訓練士のマニュアルがほとんど通用せず、「盤石な関係性をつくることが難しく、仮にできても時間がかかる」というネガティブ要素にもなり得る。そのあたりは、ちょっとしたコツで解消するが、それに関しては別項に譲りたい。
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MSBDの誕生~竜と愛の子供たち

 竜と愛のペアリングに関してはあくまで相思相愛をめざして丁寧におこなったが、2018年秋、その実を結んだ。
 仔犬の譲渡希望者を募ってあったが、譲渡仔犬は原則的にアルファ症候群などの問題を起こしにくい個体から選ぶ指針がある。
 産まれた仔犬たちは、まず分け隔てなく24時間態勢でハンドラーとともに暮らし注意深く観察しながら、その中で様々な身体的・気質的テストを繰り返し、性質やベアドッグとしての適性を把握されていくが、意欲のエネルギー量が大きく我が強い、いわゆる「アルファ気質」の個体から順にベアドッグ育成ラインに乗せる。オスメスともにアルファ気質の個体を複数残せば、当然張り合って喧嘩も起きやすくなるが、そこを含めハンドラーが超アルファとして統率する方向で育成はおこなう。
 2018年誕生の仔犬からは、最終的にオスから飛龍・マゴロー、メスから冴月・カーキが残された。この子らの一部と命を預け合ってヒグマの山を歩くかと思うと、神妙な気にさえなる。


 ベアドッグラインに選抜された仔犬たちは、そこから躾や訓練を通してさらに各種テストやチェックがおこなわれ、最終的なチーム分けや役割分担の判断をするが、教官犬(模範犬)は、コントロール性能・安定性ともに秀逸で、すでに若グマの追い払いをきっちりこなすようになった母犬の愛(Ai)とし、オオカミ特性の継承・育成に関しては、竜・ノースの手を借りた。

      


      
     (↑)生後2ヶ月を過ぎたベアドッグの卵たち/湯ノ沢ベアドッグベースにて


   また、行けるところまで行く。Go Ahead!だ。




Beardog06 マゴロー(孫狼) ♂ 2018年11月26日生まれ

 幼少期にクマに似ていたため「熊五郎」と呼んでいたが、クマの現場で熊五郎は紛らわしいので「く」をとってマゴローになった。比較的成長が遅く好奇心旺盛で繊細なうえに頑固な個体で、飛龍と比べてもわかりやすい優れた点はないのだが、勘が働いたため「魁二世」の名を用意してあった期待の仔犬だった。あれやこれやで「魁二世」への改名の機を逸し、マゴローは生涯「孫狼」になった。 ふだん素行が悪く気分屋だが、ある意味天才肌で、いざというときに最も頼りになる犬ではある。


Beardog05 飛龍(ひりゅう)♂ 2018年11月26日生まれ

 幼い頃から何かとマゴローと張り合い、よく取っ組み合いの喧嘩もしたが、最終的にマゴローを従え信望の厚いオスアルファに成長した。マゴローのように素行も悪くなく、どちらかというと理想的な学級委員的な特性を持つ。対ヒグマ作業においても安定性はピカイチで、ステディー・クレバーという言葉が飛龍には合う。張り合いながら切磋琢磨して成長した飛龍とマゴローは、ベアドッグとして現在はツイントップの位置づけにある。「飛龍と孫狼」のチームは、ヒグマに対しては初代「魁と凜」を遙かに上回る能力を発揮している。


CD 冴月(さえ)♀ 2018年11月27日生まれ

 もともと運動能力が高く気が強い冴月は凛の後継犬としての期待が強かった。が一方、特に人為物への警戒心と臆病な気質も強く、いったんはベアドッグ育成ラインから外した経緯がある。その弱点は育成とともに克服されていったため、1歳ちょっとでベアドッグラインに復帰させたが、2022年の初冬、奥山の訓練中に想定外の行動をとったため、ベアドッグラインから再び外すことになった。その暴走的な行動は、ヒート(発情期)絡みで神経質になっていることが起因していたと最終的に結論づけられた。メスにとってヒートの影響はまさに鬼門でブラックボックス的なところがあるが、本来的に優れたところを多く持つ冴月には家庭犬の立場でいろいろアシストしてもらっている。


Beardog08 カーキ(華秋)♀ 2018年11月27日生まれ

 仔犬識別用のリボンの色がカーキ色だったため、名はそのままカーキになった。どちらかというとGSDの血を多く受け継ぎ、比較的犬のマニュアルでも扱いやすい個体。チャレンジ精神が旺盛でイケイケの性格もあるため怪我をしやすい。縫合手術をあちこちしていて、抜糸と同時に新しい怪我の縫合手術をしたりもした。このタイプの犬は小怪我を積んで学ばせていくしかないが、徐々に怪我の頻度は小さくなった。幼少時より「欠点らしい欠点を持たない」と表現し譲渡の可能性もあったが、1歳を過ぎ、山での実践的な活動をおこなうにつれ、逆に抜群の長所を持たないことがベアドッグとしては物足りなさを感じさせるようになった。無理のない範囲でマゴロー・飛龍のアシスト犬として活躍することになりそうだ。


Beardog09 峻(Shun)♂ 2020年12月31日生まれ

 写真は、本人が最大限に真面目な顔を作ったところ。一見恐くも見え、身体は確かに大柄だが、おっとりしていて気が優しい。育成スタンスによって優れたベアドッグもなるが、平和主義でどんな争いをも好まないため、むしろ家庭犬に向いている個体かも知れない。運動能力・知性などはまったく問題ないため、現在まで飛龍と孫狼のアシスト犬として育成している。


CD 嶺(Rei)♀ 2020年12月31日生まれ

 もともと賢く用心深いメスで、訓練開始までに十分な関係作りを要した。ヒトや他犬に対しては、「強いものには低姿勢、弱い相手には強く出る」要領のよさがある一方、ヒグマに対しては少し執着し過ぎなほど果敢に追い立て、ついつい単独で深追いになりがち。小柄だが運動能力はすこぶる高く、α気質も持ち合わせているため、同じ特性の母親・冴月ともぶつかりがちになる。メスの喧嘩は加減を知らず質が悪く遺恨を残す傾向が強いため、不測の怪我を避けるために現在はメス同士隔離方向の扱いをおこなっている。
 柔和で穏やかな仔犬から譲渡に出す方針のため、必然的に我が強くα気質の個体ばかりがここに残ることになるが、メスに関しては十分理想的な統率がハンドラーによってとれているとは考えていない。


武蔵(Musa)♂ 2021年12月生まれ

 仔犬の頃、巷を騒がせた「クマのような生き物」と区別がつかなかったが、2歳になりようやく少しずつ犬っぽくなってきた。警戒心が強く奥手なところもあるが、素直で木訥な性格はオオカミ譲り。同胎の小次郎に比べると鈍くさく見えるが、うちでは「最も飲み込みの早い犬」。ただし、理解ではなく、肉の塊を呑み込む速さで。


小次郎(Koji)♂ 2021年12月生まれ

 武蔵の同胎だが、性格は真逆で積極的で器用。何にでも快活にチャレンジするため、覚えるのも早い。骨格構成はかなり理想的で、運動能力も高いが、お調子者で図に乗りやすいという言い方もできる。飛龍にそっくりな部分も多い。私との絆が強まり、パック全体を思いやる気持ちが育てば、飛龍の後継犬として優秀なオスアルファになるだろう。




  
                   

                                                     
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