since2004
 
 

 ご質問:周辺のクマをどんどん殺せばいいのでは?

 TopPage「What'sNew」に示してきたヒグマ情報・対策に関して、このような質問が寄せられたため、「いこいの森」周辺の対ヒグマリスクマネジメントに関して、簡単に整理してまとめます。
 「いこいの森」周辺=いこいの森〜マウレ山荘〜太平高原のエリアを指しています。

条件1:現在の若グマるつぼの原因―――過剰な捕獲がヒグマの社会構造を変え、若グマの増加をもたらしている
 まず第1に、現在の「いこいの森」エリアの「若グマのるつぼ」状態が、2004年の箱罠導入年に起きた大量捕獲が大きな要因として起きていると考えられ、捕獲一本槍による対策は効果が無いばかりか、堂々巡りに陥るので逆効果。特に2006〜2008年の若グマ増加段階で、遭遇と同時にヒトに接近する個体・じゃれつきかける個体が年間に2〜3頭現れたが、その段階に戻すことは避けなければならない。

条件2:膨大な観光客と多様なアウトドアレジャー形態
 「いこいの森」には年間のべ12万人以上のキャンパー・釣り人等が訪れ、夏休み期間・最盛期には1300人/日の来訪者が「いこいの森」キャンプ場に泊まっている。マウレ山荘の宿泊客、車中泊を含めると、その数はさらに多く見積もられ、現代では、アクティビティーの多様化で様々な場所に様々な形でアウトドアレジャーがおこなわれている。(例:釣り、ハイキング、MTBサイクリング、犬との散策、昆虫採集、などなど) 現実問題、いつどこに誰が歩き回っているか把握できない状態。
 したがって、このエリアでは銃器・箱罠の使用自体がほとんど制限され、恒常的手段として用いることは不可能。

条件3:手負いグマのリスク
 丸瀬布には、いわゆる「クマ撃ち」が存在せず、刹那的な発砲で「手負いグマ」をつくることも近年しばしば見られ、その手負いグマを追って仕留める技術・準備も残念ながらない。そのため、膨大な観光客が訪れている「いこいの森」エリアでのヒグマへの刹那的発砲自体リスキーで、もしおこなう場合は、観光客・住民などの立ち入り制限・避難等を含め、鳥獣行政・警察・消防の認知のもとハンターがしっかりチームを編成し、厳戒態勢で確実かつ速やかにおこなう必要がある。

条件4:箱罠のリスクとディメリット
 各所で述べるように、箱罠というのは「クマ撃ち」不在の地域で曖昧に乱用されがちだが、ヒグマをアトランダムに誘引して無差別に捕獲する方法でもあり、以下のような危険性が不可避に生ずる。
  1.特定の問題個体が狙って獲れない(冤罪グマの発生)
  2.わざわざ山から複数のヒグマを人里に誘引する(降里ヒグマの増加・人為物を食べる可能性増加)
  3.親子グマの子グマだけが捕獲された場合のリスク
  4.箱罠周辺数百mで複数のヒグマが攻撃的になる危険性
  5.trap-shy(罠警戒)によって、箱罠が利かないクマが増加する
  6.個体識別ができていないため、捕獲の評価自体が不可能(ヒグマ対策では捕獲数は評価材料にならない)
などなど
 以上より、箱罠は往々にしてそのプラス効果よりもマイナス効果のほうがはるかに大きく、可能な限り控えるべき手法。特に「いこいの森」エリアでは原則的に用いることはできない。

条件5:防除の欠如―――人里内のエサ場がある限り完全なヒグマ降里阻止ができない
 現在の遠軽町・丸瀬布では、農地・人里などに関してヒグマに対する事前の防除がまったくされておらず、つまり「ヒグマを人里に寄せない」「入れない」という方向の策がまったくとられていないため、特に対ヒグマの防除が欠けたデントコーン農地がヒグマの大々的なエサ場となることを止めようがない。「人里はクマが居てはいけない空間」という合意を行政・住民住民・農家・来訪者で明確に持ち、まず「人里にヒグマを寄せない」「入れない」ということを各立場で実践しなくては、この点はどうにもならない。
 あるヒグマの降里ルートを止めることは可能だが、そのヒグマが別ルート移動し、思わぬ場所に出没する可能性もあり、また、全部を止めようとして不完全になっても同様のことが起きる。

条件6:「新世代べーアズ」を発生させる条件が十分にそろっている
 知床半島・大雪山系(高原沼周辺)などに見られる「新世代ベアーズ」(山中正実・説)の発生メカニズムを分析した上で、そのメカニズムをこのエリアに当てはめて考察した結果、「新世代ベアーズ」が「いこいの森」エリアに発生する条件が十分に揃っており、捕獲一本槍では十分なリスクマネジメントは成立しない可能性が大。

条件7:農業被害(経済被害)に関しての農水省枠助成
 2012年までに、農水省枠の電気柵等への助成金(助成率100%)で、このエリアのデントコーン農地へ電気柵資材は完全に行き渡ったため、その運用に関しては農家の裁量・責任でおこなってもらうことを原則とした。残念ながら、仮に血税の電気柵でも、「きちんと運用すべきだ」と指図する法的根拠はないらしい。
 ヒグマ用の電気柵を設置しメンテナンスを適正におこなったにもかかわらず、もし仮に、それでも侵入するクマが現れた場合は、羆塾のほうでその個体を完全に止める準備は整っている。

※ここでは三つの仮説を2006年〜2012年各種調査と十分な吟味の上で採用した。
 1.「捕獲によるヒグマ社会の変化」仮説(岩井)
 2.「trap-shy」仮説(岩井)
 3.「新世代ベアーズ」仮説(山中正実/知床斜里)



 以上の条件をふまえ、実際の対ヒグマリスクマネジメントを構築する必要に迫られたが、現在「いこいの森」エリアでおこなっているヒグマ対策の根幹は以下の通り。

対策1:ヒグマの調査・把握
 事実本意にすべての対策をおこなうために、まずは各種調査で周辺のヒグマの動向をできるだけ正確に把握する。
 調査方法:トレイルカメラ・痕跡調査・ベアドッグによるルート追跡・チョークトラップ 等

対策2:「いこいの森」へのヒグマの侵入・接近を防止
 電気柵・バッファスペース・ウルフピー・ベアドッグマーキング・パトロール・追い払い等を用いて、いこいの森への侵入・接近を防ぐ。

対策3:周辺ヒグマの性質把握とコントロール―――若グマの忌避教育(byusingベアドッグ)
 若グマ・メス熊を中心にヒトを避ける忌避教育をおこない、観光客との接近・遭遇に対応する。
 具体的には、ベアドッグ・ベアスプレーを用い、「ヒトの接近→遠ざかる・隠れる」「ヒトとのバッタリ遭遇→逃げる」を学習させ、強化・固定化させる。結果、観光客とヒグマの遭遇・目撃は想定内のポイントで毎年起きているものの、危険な状態に陥りかけたことはなく、ヒトへの積極的接近・じゃれつきが完全に防止できている。

対策4:降里ヒグマのルートコントロール
 上記条件より、刹那的あるいは不用意に出没ヒグマの行動を止めたところで、別ポイントに問題が移動するだけでむしろ危険なため、ヒグマの移動ルートを計画的に絞って、ヒグマの行動を一定レベル・一定範囲で容認しつつ把握管理をする方向にならざるを得ない。このことで、比較的安定的なヒグマの活動パタンが得られ、ヒトとの遭遇・目撃など人身被害の危険性は極小に維持できている。
 
対策5:確実で速やかな問題個体の捕獲方法の提案
 メディアに対しての自己保身的な因習、あるいは無差別テロ的な捕獲ではなく、問題個体の把握と判断をきっちりおこない、ピンポイントで確実速やかに捕獲できるシステムを遠軽鳥獣行政には提案中。少なくとも「いこいの森」エリアでは、「クマ出没・目撃→箱罠でも置いておきましょう」という不合理かつ不完全な対応は非常にリスキーで、早急に改めるべきと思われる。
※私個人としては、他地域からのクマ撃ちの招聘(来てもらう)もありうると思いますが、現在はまだ行政的にそこまでできない状況のようです。クマ撃ちナシでやろうとするなら、やはり警察・消防も含めた「協議会」的な組織で意志決定を可能とし、あくまでシステマチックに、地元ハンターでチームを組んで三叉射撃等で問題グマの捕獲をおこなう方向ではないでしょうか。


 大雑把ではありますが、従来型の捕獲一本槍を脱却し、以上のような条件と対応策で「いこいの森」エリアのヒグマ対策はおこなってきており、対策5の提案を除き、2006年から継続している若グマ忌避教育を含めたヒグマ対策はほぼ成功していると思います。
                                             
                                                                以上です
 
Copyright (C) 2010 higumajuku. All Rights Reserved.
site map    個人情報保護について   powerd by higumajuku